何を、何を間違ったんだろうか。

タイミング?
シチュエーション?
言葉?

まさか、…まさか、こんな結末になるなんて。

…信じられない、と言うより、信じたくない。



「…やっぱり、夜景の綺麗なレストランにすべきだったか…いやでも、アイツは、そんなベタな感じよりさりげない方が良いと思ってだな…!」

「はぁ…、良いと思ったんですね」



俺の訴えを、呆れた表情で聞く伊助に、怒りよりも情けない気持ちで満たされる。

…とは言え、左近や久作には、なんか言いにくいし…、シロには絶対言えないし…、
何かと言いやすくて、割りと聞き上手なもんで、ついつい後輩を頼ってしまう。



「やっぱり指輪も買っときゃ良かったか…いやでも、サイズも曖昧だし一緒に買いに行った方が良いと思ってだな…!」

「好みもありますしね」

「そう!アイツに似合いそうなのはいくつか見繕ってんだけど、アイツの趣味に合うかがまだ分かんねぇんだよ…何が欲しいとかも言わねぇし…」



ここまで至るまでがあんな感じなもんで、まぁ、自分の欲求を口にしない。

それでも、俺の提案には自分の意見も言うようになったし、偶に、たまーに、自分から寄って来るようになったし。

一時のことを思えば、かなりの進歩だが…、彼女を理解するには、まだまだ情報が、経験値が足りない。



「…で、何て言われたんです?」

「………、考えさせて、だと」

「なんだ、フラれてないじゃないですか」

「フラれるかよ!それはねぇ、けど…、」

「二つ返事で、OKしてくれると思ってたんですね」

「……思うだろ、普通」

「まぁ、基本的に博打は打たないタイプですもんね」

「…いけると、思ったんだよ」



表現に不自由さがあるとは言え、なまえに好かれてる自信はある。

滅多に見れないけど、偶に、たまーに、ふわっふわした甘い表情で笑うことだってあるし、こんなの、絶対俺にしか見せないだろうな、って思うし。

…そういえば、そんな顔を見せてくれたのは、俺の行動が引き金だったのかもしれない。

職場の飲みがあった日で、標的にされるわ終電無くなるわ女の先輩に迫られるわで、まぁ散々で。
次の日が休みだってのもあったけど、やってらんなくなって、急に押し掛けたんだよな、確か。
相変わらず、何も準備してないって慌てながら、世話してくれたんだけど、俺も相当飲んでたし、とにかく眠くて。
意識を手放す前に、うっすら開いた目にぼんやり映ったのが、そんな、表情だった。

…今思い出しても、惜しいことしたよな…
何であのまま寝たんだ、俺…
でも、次の日も、心なしか機嫌良さそうだったから、夢じゃない、と、思いたい。



「…その、でれっでれな顔で言えばうまくいくと思いますよ」

「…こんな顔で、んな大事なこと言えるかよ」

「僕らは男だから、きっとピンと来ないと思いますけど…、結婚に対する考え方って、女性はまた違うみたいですよ」

「…俺だって、真剣に考えてるっつーの」

「それは分かってますよ、きっと。…結婚した女友達の言葉なんですけどね、『彼のことは好きだし、彼との時間が人生の中心になることは嫌じゃないけど、自分のお父さんとお母さんと同じお墓には入れないんだなぁって思うと、寂しい』って」



『勿論、彼と同じお墓に入るんだから、嫌な訳じゃないんだけど』とも。

そう、言い終えた伊助は、いつもよりも大人びて見えた。
伏し目がちだった目線を上げて、こちらを見る顔は、『分かるでしょう?』とでも言いたげだ。

…よく言われることだけど、女の方が、なんか、大人だな。
それが嫌だって言うんじゃないけど、理解するには、やっぱり、まだまだ足りない。



「伊助、」

「はい?」

「…俺も、もーちょい大人になるわ」

「はぁ…三郎次先輩の場合、大人になる前に、素直になった方が良いんじゃないですか?」

「俺は素直だっつーの!」

「僕や、川西先輩、能勢先輩は付き合いが長いから知ってますけど、彼女さんはそうはいかないんじゃないですか?聞いてると、かなり心配性みたいだし。たぶん、いっぱい考えてるんですよ。考えすぎて、逆に不安になっちゃうのかもしれないし」



安心させてあげたいと、思うでしょう?

そう言って笑う後輩は、俺の扱いが上手い。
別に、言葉巧みに、って感じじゃないが、いつも、何となく、合点がいく。

流石、あの濃い面々を黙らせるだけのことはあるな。



「三郎次先輩も、同じですよ」



気張り過ぎです。


それには、確かに頷けた。






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