『なまえのオムライスが食べたい』
唐突に、そんなメールが入って、慌てて冷蔵庫をチェックした。
卵よし、玉ねぎ、人参よし、鶏ももよし、ケチャッ…プが、ない…!!?
『15分後に着くから』
続いて届いたメールが、更に私をあたふたさせる。
一番近くのスーパーへは片道5分、コンビニも同じくらいの距離、往復だけで10分かかってしまう、調理時間5分じゃ無理…でもケチャップ…バ、バターライスにすれば…!でもソースどうすんの!?あッ、ホワイトソース!?牛乳ならある!ピザ用チーズもあるし…!それしかない…!!
広くはない我が家を走り、手早くに包丁と菜箸を持ちかえ続ける。
あぁでも、オムライスだけじゃバランスが…!明らかにビタミンが足りない…コンソメスープでも…!とりあえずお水沸かそう野菜はチンで火通せば何とか間に合うかも…!
ピンポーンと、残酷にも鳴り響くインターホン。
さながら、乗る予定だった電車の扉が目の前で閉まった時のような…
なんて言ってる場合じゃない!
急いで受話器を上げて、返事をして、キーを解除する。
二回目のインターホンに、玄関まで走ったは良いものの、とても開けづらい…
だって、まだ卵巻けてないし…ソースも出来てないし…味も具もないただのお湯が鍋の中でぐらぐらしてるだけだし…
とは言え、開けない訳にはいかない。
意を決して、扉を押す。
「よぉ」
「…い、いらっしゃい…」
「…お、うまそうなニオイする」
「あっ、待っ、まだ…!」
勝手知ったる私の家、といった様子で、サクサクと進んでしまう彼を、慌てて追いかける。
慌てて作っていたせいもあって、そこかしこが散らかりっぱなしなのに、気がついてしまった。
あぁぁだらしないって思われるじゃない何故あの時片付けておかなかったんだ…!
「お、ケチャップじゃねぇの?」
「えっ、あ…その…ケチャップ、切らしてて…その…バターライスに、したんだけど…駄目だった…?」
「いや、本格的だなーと思って。俺、家じゃケチャップのしか食ったことないわ」
「あ、そんな、良いもんじゃない、けど…あの…まだ…」
「…って言うかさ、怒って良いぜ?」
「…うぇ?」
彼の口から飛び出した言葉に、一瞬、時が止まる。
いや、まだ完成してないし、文句言われるとしたらこっちなんじゃ…?
「今から行くから作っとけ、なんて、勝手すぎるだろ」
「え…あ、…え?」
「俺さ、変に頑張んの、やめるわ。そういうことするから、お前も気遣うんだよな」
きちんと向き合って、どこか嬉しそうに笑う彼は、私の、とても好きな彼で。
彼の言わんとしていることは、何となく分かるけど、
…必死になってたのは、自分から、あれが食べたい、なんて言ってくれて、嬉しかったから、
「たぶん、焦ってたと思う。でも、もう、急かしたりしないから」
…ほら、また、そうやって、先回り。
だけど、
「これからは、俺も、好きにするわ。お前も、もっとワガママ言えよ」
申し訳ない、より、嬉しい、が勝るようになったから。
…二年程前のことを思えば、大きな進歩、かな。
「…じゃあ、」
一番のワガママを、ここで。
Would you marry me ?
***
H26.7.29
お付き合い、ありがとうございました◎
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