何がどうしてこうなったのか。
動きの鈍い頭では、処理し切れていないようだ。
背格好に似合った、少し武骨で大きめの、シルバーが光る四輪には、私と、持ち主であるドライバーが、一人。
二人が親しい間柄であるならば、違和感など特に生じないのだと思う。
けれど、そうではないから、戸惑ってしまう。
迷惑ではないだろうか。
逆方面を行く私の為に、わざわざ愛車を走らせるだなんて。
初対面であり、尚且、ほとんど、会話らしい会話をしていないと言うのに。
申し訳ないと、胸の内で何度も繰り返しては、
今更伝えたところで、かえって気分を害してしまうのではないかと思うと、音に乗せることも出来はしなかった。
「寒くないか?」
「っ、はい、大、丈夫、です…」
低く響く声が、耳から侵入しては、体中に甘く広がっていくようだった。
別に、酔っぱらっているんじゃない。
あたたかい、優しくやわらかい空気の中で揺蕩いながら、自分の真ん中の、芯の辺りだけが、妙に緊張しては硬直している。
そんな風だった。
彼―能勢さん―の、大きいけれど太くない指を見つめる。
本来は、目を見て話すのが礼儀だとは思うけれど、彼は運転中だし、何より、羞恥心が勝って、とてもじゃないが、出来そうになかった。
「この辺りは、夜景が綺麗なんだな。あまり来ないから、知らなかった」
「そう、なんですね、」
そして、沈黙。
微かに、緩やかに流れるのは、ラジオ番組にリクエストされた、洋楽。
誰かも、どこの国のものかも、分からない。
そんな音楽が、今は、とても頼もしく思えた。
「じゃあな」
「は、はい…ありがとうございました…!」
何を考えていたのか全く覚えていない。
と言うより、何も考えられなかった、と言う方が正しいかもしれない。
ネオンに照らされた、ハンドルを握る横顔。
低い声を吐き出す口元。
おやすみと言った時に、ふっと細めた目。
そのすべてが、頭にこびりついて離れない。
ふわふわとし続けている私の心を、完全に支配してしまっている。
「…どうしよう」
先程まで近くにあった声を、空気を、姿を、
ひたすら映す胸中に、
今夜は眠れる気がしなかった。
期待と予感の狭間にて
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H25.2.5
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