「…へぇ、良い感じだね」



ニコニコと嬉しそうに言う姿は、三十路も半ばを迎えているとは、とてもじゃないけど思えない。

若々しくて、気さくで、よく気のつく人。

それが、私の中の、斉藤さんのイメージ。



「…はい、おかげさまで」

「三郎次くんの友達だし、俺も会ったことあるけど、真面目でしっかりした子だし…、うん、良いと思うな」

「…はい、良い人、です」



頭に彼―能勢さん―の姿を思い浮かべると、それだけで顔が熱くなる。

こんなの初めてで、どうして良いか分からない。

勿論、嬉しいけど、少しだけ、怖い。

なんだか、自分が自分じゃなくなっていくようで。



「なまえちゃんは、もっと甘えなきゃダメだよ」

「…私には、簡単じゃないです」

「そうだろうね。…でもさ、」



斉藤さんは、時々、酷く優しい目をする。

穏やかで、あったかくて。

向けられる側としては心地良いけれど、何が、この人をそうさせるんだろう。

私には、想像もつかない。



「出来そうな気が、するでしょう?」



『彼になら』

付け足された言葉に、ドキッとする。

…この人には、いつもバレてしまう。

人見知りの激しい私の、数少ない、"話しやすい人"の一人は、どこか、お兄ちゃんのようだ。



「たぶんね、俺が言ったって、否定しちゃうんだろうけど、」



こくん、と頷いた私に満足したのか、更に目を細めた斉藤さんが続ける。

いつもは感じない歳の差が、明確になる瞬間だ。

…思えば、十も違うんだもの。

彼は、やっぱり、私よりずっと大人。



「なまえちゃんは、もっと、自信持って良いんだよ。仕事に対してだって、一生懸命だし、技術もお喋りも、ずっと上手になったよ」



欲しい言葉を、彼は、知ってる。

職業柄、私も、身に付けたいと思う力を、彼は持ってる。

頭の中では、そう、考察してみるけど。

心に通ってくるものがあるから、すんなりと聞けるんだと思う。



「なまえちゃん、君が変わるってことはね、君だけの問題じゃなくって。君の周りの人にとって、嬉しいことなんだよ」



『勿論、俺もね』

そう、にっこりと笑った顔は、もう、いつもの斉藤さんだった。



十年経った時、自分はこんな大人になれるのか。

そんな、随分と先の心配ばかりが、私の頭を駆け巡っていた。





それだけなんだよ





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