ゆるくなった頬が、少し、戻ってきた。
顔を見れば、声を聞けば、またゆるんでしまうことは否定しないが。
頭の中に浮かべた時、平然を装えるくらいにはなった。
そりゃあ、半年も経てば、流石に慣れる。
毎回へらへらしてたんじゃ、身がもたないし。
「っ…、」
ケータイが震える。
使用頻度の低い、通話専用のそれが鳴ると言うことは、十中八九、彼女だ。
…また、ゆるんでるな。
表情を引き締めて、通話ボタンを押す。
「もしもし、」
『久作……久しぶり』
期待していた声とは違った、懐かしい声だ。
…今の俺は、望んでいない、
「…何の用だ」
『…ちょっとで良いの、会えない…?』
俺の様子を窺うように、慎重に言葉を、声色を、間を、選んでいるのが分かる。
彼女は、元来、こんなに言動に気を巡らせる質じゃない。
「もう会わない。そう言った筈だろ」
『…分かってる。でもっ、』
「それより、」
自分の中心が、冷えていくのを感じる。
今、俺が手にしているのは、以前、彼女に持たせていたものだ。
この液晶に表示されているのは、"なまえ"の文字。
電話口の相手は、なまえじゃない。
なまえには、以前、俺が使っていたものを渡してる。
「どうやってそれを手に入れた」
『…電話、したの。そしたら、久作じゃなくて、女が出て…、…データが消えたから、番号教えてほしいって、言ったの』
「…何でお前がそれを持ってるかを聞いてる」
『っ…、本人に確認をとってからじゃないと、教えることは出来ません、って、言われたのよ。だから…元カノだって、正直に言ったの。話だけでも聞いてって言ったら、分かってくれて。さっき、カフェで…』
「会ったのか」
『…ちょっとだけ。…、これ持って、逃げてきた』
「…俺が、どう思うかぐらい、分かるよな?」
『…分かってる。でもっ、』
「お前とはもう会わない。彼女にも、一切近付くな」
『久作っ、お願いっ、待っ、』
勢いよく、電源ボタンを押した。
沸々とした怒りが、俺の頭を占拠してる。
彼女との付き合いは、今までで、一番長かった。
少女のような無邪気さを失わないのが魅力だが、年上にしては落ち着きが無く、思慮が浅いのが欠点だった。
その欠陥を補う程の明るさと、純粋さが、彼女と過ごす時を引き伸ばしたんだろう。
再び鳴り響く振動音に、はっと、今に帰った。
主に使っている、スマートフォンの液晶には、みょうじなまえの文字。
これは、まず間違いなく、なまえだろう。
なるべく落ち着いて、通話に切り替える。
「…もしもし、」
『っ、あのっ、なまえです、能勢さん、あの、ごめんなさい…っ!!能勢さんに頂いたケータイ…』
「…盗られたんだろ」
『あっ…ごめん、なさい…あの…』
「アイツに、会ったんだな」
『っ…、はい…』
「会う前に、何で俺に言わなかった」
『あ…えっと…』
「アイツのことは、お前には関係ない」
『………、』
「ケータイのことは気にしなくて良いから」
『……、…すみません…』
「アイツは俺がどうにかするから。もう、気にするな」
『…………』
「じゃあな」
一方的に切るなんて、なまえには、したことなかったのに、な。
やっぱり、まだ、平常心にはなれない。
これ以上、なまえに危害が加えられなければ、それで良い。
…そう思うしか、今の俺には、出来そうになかった。
ラスト
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H25.7.7
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