「…それ、まずいんじゃないか?」



重い空気の中、思わず、口を開いてしまった。

輪になるように座る僕らの沈黙は、ごとりと、その真ん中に落ちたようだった。



「…分かってる」

「…久作、マジで分かってるか?」

「…どういう意味だ」



ギロッと、より鋭くなった目を向ける久作には、余裕がない。

それは、そうだろう。

すんなり終わった訳ではない、元カノが出てきたのだから。
まして、今の彼女と、自分の知らない内に接触していたなんて。
穏やかでいられる筈がない。



「落ち着けよ。ほら、茶」



勝手知ったる久作の家で、お茶を煎れるのはいつも、家主でも何でもない僕の役目だった。

お茶請けが煎餅しかないから、今日は出さないでおこう。
こんな話をしてる時に、バリバリと言う音に邪魔されたんじゃ、久作がキレかねない。
それは何としても避けたい。

キレた久作のめんどくささは、僕と三郎次が誰よりも知ってる。

年齢的なものもあるし、普段はそう、声を荒らげることがない奴だから、キレると手がつけられない。
僕たち三人の中で、一番体格も良いし。

三郎次も筋肉質だけど、長身の久作相手じゃ、上背が足りない。
僕は背が低い方じゃないけど、筋力が足りない。
久作は、僕ら二人の口喧嘩を、それぞれ片手で押さえ込める力を持ってる。
あれは恐いから止めてほしい。

…話がそれた。

まぁ、そんな訳で、久作は、所謂修羅場に遭遇しているのだ。

そんな久作を、僕らは心配しているのだが、久作本人が思う不安要素と言うか、解決すべきところと言うか、が、異なっている気がしてならない。

簡単に言うと、その対象が違う。

元カノか、今カノか。



「…久作はさ、今、一番に何をするべきだと思う?」

「…アイツと、今度こそ、ちゃんとケリをつける」

「あー…、うん、それも、大事だけどさ、」

「みょうじさんの、傍にいてあげた方が良いんじゃないか?」



ほら、やっぱり。

久作は真面目だから、前のことを片付けてから、今を見ようとする。

でも、今現在繋がりが出来つつある彼女を放って、過去ばかりと向き合うってのは、どうなんだ?

一番に向き合わなきゃいけないのは、彼女―みょうじさん―なんじゃないのか?



「…なまえは、分かってくれてる筈だ」

「…お前さ、それ、甘えって言うんだよ」

「自分のことですら分かんない時あるのに、他人のことなんか、もっと分かんないよ」



少なくとも、僕は、そうだった。


小さく付け足した言葉に、三郎次が頷くのが見えた。

僕らは、まだ少しなのかもしれないけど、知ってる。

自分が思ってる程、相手には伝わってない。

相手を想えば想う程、本当のことが言えなくなるんだって。


だからこそ、必要なんだよ。

僕らは、たくさんの道具を、言葉を、持ってるんだから。

今使わなくて、いつ使うって言うんだ。



「久作、それも大事だよ。中途半端なままじゃ、皆、前に進めない」

「でも、順番は、逆でも良いと思うぜ?言葉ひとつで、ずっと楽になるから」



お前一人で、頑張んなくて良い。

僕も三郎次も、今のお前には、みょうじさんもいるんだから。

男が甘えちゃいけないなんて、誰が決めたんだ。

皆で何とかすりゃあ良い。


どこもきっと、そんなもんだから。





「………サンキュ」





小さく鼻をすする音が響いて、安心した。

自然と顔を見合わせた僕らは、おんなじような顔してて、なんか、可笑しかった。









(何が悪い!)





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