とん、とん、と、背中に触れる大きな手の温度が、とても心地良い。

みっともなく泣き出してしまった私が落ち着くのを、静かに待ってくれている。

大きな人。

体つきもだけれど、その心も。
包容力、と言うのだろうか。
彼の傍にいると、安心する。
触れているとなれば、尚更。



「…大丈夫か?」



その声色でさえも、あたたかく私を包んでくれるようで。

こんなに素敵な人が、私を、こんな私を、優しく撫でているなんて。

こんな幸せ、そうあるものではないのに。

その先を望む私は、なんて欲深いのか。

そんな自分が恥ずかしくなって、持ち上げかけた頭を下げてから、小さく頷いた。



「…なまえ、聞いてくれるか?」



何を、とは、とても訊けない。

『話がしたい』と、少し久しぶりに会う約束をしたその日が、今日。

結論は、きっと、どちらか。

私か、…元カノさんか。


前者であってと、ひたすら願う私の心は、可愛くない。

彼の決めたことをそのまま受け止めて、受け入れる覚悟なんて、出来る訳ない。


そんなに、キレイじゃない。



「…、私は、」



聞いてくれるか、と言う彼の問いには答えず、勝手に話し出す私を、彼は不快に思うだろうか。

だとしても、もう、止まれない。



「私は、能勢さんじゃなきゃ、嫌です」



大きく見開いた目が、彼の驚きを表している。

どう思われたって何だって、とっくに手遅れ。


私だけのあなたでいて、なんて言うつもりない。
私に、あなたを縛ることなんて出来る筈ない。

だけど、あなたにとっての、一番の女の子でありたい。
私が良いって、迷わず選んでほしい。

ふとした折りに、会いたいって、声が聞きたいって、思っていてほしい。

私が、あなたに思うのと、同じように。



「…、泣きながら睨むなよ」



お前が心配することなんて、何もないから。

そう言って、頭に置かれた手の重みが、すべてを浚っていくようで。

あぁ、もう、みっともない。

上手に話せないけど、上手に笑えないけど、なるべく、手のかからないように、していたつもりだったのに。

包容力と誠実さに溢れた、絵に描いたように素敵なあなたに、呆れられないようにと、気を付けていたのに。

そんなものは必要ないと、言って貰えた気がして。


私の、人生における幸運は、彼と出会えたことに、すべて使われたんじゃないかと、本気で考えてしまった。


それくらい、これは、私にとって、待ち望んだ瞬間だったみたい。



ちらっと持ち上げた視線の先にあった、やわらかい笑顔に、また泣き出してしまったのは、私だけのせいじゃないと思うんです。











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H25.10.9
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