暗い部屋の中で、ふと、一人目覚めるのには、慣れていたけど。
隣にぬくもりがあることを、酷く懐かしく感じる。
ゴロゴロと、よく寝返りを打つな。
普段は控えめなだけに、少し可笑しかった。
無防備な、安心しきったような寝顔を見ると、気が抜ける。
こういう表情、好きだな。
目覚めた時、笑ってくれると良いんだが。
転がりながら少しずつ離れていく彼女を、強引に引き寄せてから、ゆっくり目を閉じた。
「……ぅ…………、…っ!!?」
「ん?起きたか?」
「ぇ、ぁ………、はい…」
「…昨日のこと、覚えてるか?」
「………はい」
がばっと勢い良く起き上がったかと思えば、まだ半分程しか開かない目で、きょろきょろとしているものだから。
…少し、不安になった。
ひとつ、大きな壁を、取り壊せた気がしたから。
先に進んでも良いんじゃないか。
そう、思ったのは、自分だけだったのかもしれない、と。
「…、嫌だったか?」
「っ…、嫌じゃ、ないです…!」
「っ…、分かったから、睨むなって」
「…すみません」
「…はぁ、まぁ、良かったよ。ちょっと、恐かったんだ」
「…何が、ですか?」
「いや、なんか、なまえ、カタそうだからさ、婚前に手出したら幻滅されるんじゃないかと思って」
「…能勢さん、もしかして、馬鹿にしてますか…?」
今にも膨らみそうな頬のまま、じっとりと睨んで来るのがまた、可愛くて。
その、白くてやわらかい頬に触れる。
はっと息を飲んでは、空気を張り詰めさせるような、この初々しさが、何だか嬉しい。
もっと、崩してみたい。
次はどんな顔をするのか。
六つも下の女の子に夢中になる自分は、他所から見れば、滑稽だろうか。
「してないよ。だから、睨むなって」
「…能勢さんって、結構、意地悪い、です」
「あぁ、ちょっと猫被ってたからな」
恨めしそうに、下から見つめられるのは、少し気分が良い。
自分の発言に、忙しなく表情を変える姿に、一層愛しさが増す。
目を大きく開いて、さっと頬を紅く染める彼女の可愛さは、どう説明すれば伝わるんだろう。
…いや、伝わらない方が良いか。
じわじわと深まる独占欲に、自分でも呆れてしまいそうだ。
「…っ、すみません、私、帰ります…!」
「え…、あ…そうか、今日も仕事か」
「はい、…あ、あの、」
バタバタと身支度を始める姿に、ちょっとした寂しさを覚えていると、言いにくそうに、モジモジとし出すものだから。
仕事になんて行けないようにしてやろうかと思ってしまった、のは、黙っておこう。
「幻滅は、しないです、けど、期待は、してます」
お邪魔しました…!
そんな台詞を置いて、慌ただしく、彼女は出て行った。
「…なかなかの殺し文句、だよな」
覚悟、出来てんだろうな、
小さく呟いた自分の声色が思ったより低かったこと、
少しだが口角が上がっていたことは、無意識だった。
どうやら、当分、彼女からは抜け出せそうにない。
ブロッサム
***
H25.11.11
ALICE+