うなだれた背中を見るのは、慣れたものだ。
それだけの時間を、自分たちは共有している。
干からびてしまうのではないかと思う程に泣き腫らした夜も、
眠いと目を擦る手を引いて歩く朝も、
何の違和感もなく、あたかも、当たり前かのように。
脆く、傷つきやすく出来た彼女の心は、俺の知り得ない何かに怯えているのだろう。
カタく、曲がることを嫌う俺の頭では、その闇を分かってやることは出来ないらしい。
少なくとも、今の俺では。
「なまえ」
ピクリ、と小さく揺れる華奢な肩を、無骨な俺の手が掴む。
出来るだけ、そっと。
器用な方ではないし、彼女に伝わるかどうかは分からないが。
「…きゅ、ちゃん…」
物心ついた時には定着していた呼び方は、今では、彼女しか口にしない。
あるとしたら、三郎次辺りがからかって呼ぶくらいだろう。
思春期特有の照れくささから、その呼び名を拒んだこともあったが、何度言っても同じように呼ぶものだから、諦めてしまった。
彼女に悪気などあるはずがない。
俺同様、彼女も器用ではないだけだ。
「ここに、いるから」
小刻みに震えている手をとって、小さく握る。
肩を掴んでいた手で、ゆっくりと背中を撫でた。
何を口にして良いのか、いつも分からない。
彼女は何を求めているのか。
何も、求めていないのかもしれない。
それでも、
当たり前のように、俺はここにいる。
「…あり、がと」
深く俯いているせいで、顔は見えないが、少し、彼女の纏う空気がゆるんだ気がした。
これは、ただの俺の自己満足かもしれない。
それでも良い。
どれだけ時間がかかっても、彼女が笑ってくれるなら。
お前の傍にいること。
それが、俺の使命のような気がするんだ。
そう言ったら、らしくないと、君は笑うだろうか。
はにかんだような、柔らかい瞳で。
君のすべて
***
H23.6.29
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