「…ほんっと馬鹿だよな」


言葉が刺さる。
それは丁度、こんな感覚のことを言うのだろう。

私を見るその目は、呆れかえっているけれど、どこかあたたかい気がした。


「…返す言葉もございません」

「…そんなになるくらいなら、別れたりするなよ」


左近の言うことは、ごもっとも。
堪えられなくなったのは私だし、切り出したのも私。
だから、私がこんな風に、めそめそとし続けているのはおかしい。

正論だからこそ、酷く、痛かった。


「…分かってたつもり、なんだけど、なぁ」

「…分かってないよ。お前も、三郎次も」


彼の名前が音になっただけで、どくんと胸の奥が波打つのを感じる。
私を構成するものの中で、彼がどれほどの比重を占めていたかなんて、左近にはバレバレだろう。

何よりも、誰よりも、特別だった。
月並みな言葉で言えば、運命だって、本気で、思った。

初めて出会った時の直感が間違っていたなんて、別れを告げた今でも思ったことはない。
間違いなく、出会うべくして出会って、恋におちたんだって、今だって、信じてる。

繋いだ手のあたたかさも、照れた横顔も、逞しい後ろ姿も、意地悪く笑う顔も、そのすべてが、私の幸せに繋がってるって、本気で、信じてた。

実際、そうだったと思う。
それぐらい、彼を想っていたし、きっと、愛してた。


「…元気に、してる?」

「…お前と一緒だよ。アイツも」


先に好きだと言ったのも、さよならを告げたのも、どちらも私だった。
なんて身勝手な女だと、彼は思っただろうか。
そう思われても仕方のないことを私はしたのだから、気にしたってどうしようもないけれど。

彼は、決して素直じゃない。
照れていたり、からかっているだけだと分かってはいたけど、偶に、じくりと痛んだ。

私は、決して素直じゃない。
照れていたり、余裕が無さ過ぎて軽いパニック状態になっているだけだと、彼は分かってくれていただろうか。

自分を、良く見せたかった。
誰でもない、彼にだけは。
可愛くて気の利く彼女だと、

好きだと、

思ってほしかった。


「…そっ、か」

「…なまえ」

「…ん?」

「何を選んでも、お前が納得してるならそれで良いと思ってる。でも、」


言ってしまえば、疲れたんだと思う。
好き、という感情ばかりが先走って、ひとつひとつをきちんと伝えられないまま、ここまで来てしまった。

私と彼が恋人ではなくなったあの日から、一月は経っていると言うのに。
いつまでも彼の影をまぶたの裏で追いかけ続けてる。

そんな格好悪いこと、彼が知ったら、どう思うのだろうか。


「後悔だけはするなよ」


抜け出せない螺旋のように、私の中をぐるぐると回り巡り続けているのは、何だろう。


ただ、隣で笑っていたかった。


それだけなのにね。





見栄意地と、その末路





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H23.9.3

もうさよならは言わない、から繋がります。
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