嫌いな訳じゃない。
ただ、気に食わないだけ。
ぼーっと、何を考えているのか分からない顔をしたまま、核心という脆く弱い場所に踏み込んで来たり、適当に見せておきながら、酷く優しい、哲学的なんだか感情的なんだかよく分からない言葉を吐き出したり。
何が気に入らないって、それらがすべて、彼女に降り注がれてるってこと。
僕は、利発じゃないし、のんびりしてるし、お世辞にも、頼りがいがある、なんて言えない男だと思う。
むしろ逆で、よく分からないけど、癒し系、なんて言われてしまったりする。
言ってくれる人たちに悪気はなくて、素直な意見なんだと思うから、やっぱり僕は、あまり男として見られていないのかもしれない。
それは、ちょっと情けないけど、別に、さして気にしてない。
どうだって良いんだ。
彼女さえ、ちゃんと見ていてくれれば。
「なまえ先輩!」
「しろちゃん。今から部活?」
「はい、そうです」
「そう。頑張ってね」
にっこりと笑う姿は、やわらかくって、あったかくて、くすぐったくなる。
よく晴れた日のお昼寝中に、程良く差し込んでくる木漏れ日みたい。
だけど、この笑顔は、彼女の中から自然に出たって訳じゃない。
嘘だなんて言わないけど、ちょっと背伸びして、頑張って生み出したもの。
彼女がこの笑顔をくれる度に、胸の奥ら辺がちくっとして、ざわざわする。
僕相手に、頑張らなくって良いのに。
どんなあなただって、受け止めたいと思うのに。
僕じゃ、駄目なの?
「…はい」
「…しろちゃん?」
「…なまえ先輩は、なまえ先輩のままでいて下さい」
大きな瞳が、揺らぐ。
困らせたい訳じゃない。
無理なんて、してほしくないだけ。
せめて、僕の前では、そのままのあなたでいてほしいだけ。
…あの人じゃなくて、
僕の前で。
「…ありがとう」
にっこりと笑う姿は、とっても綺麗で、可愛くって、あったかいけど、僕のお腹の奥の方は、もやもやが渦巻いたまま。
彼女の意思で作られたものだけど、ホントに好きで作ったものじゃ、ないんだと思う。
そんな彼女の、凍えた不安を溶かすのは、僕が良い。
あの人じゃなくて。
もう少しだけ、待っていて下さい。
すぐ、すぐに、あなたを包み込めるような男になります。
それまで、お願いです。
あの人のものに、
ならないで。
鐘が鳴るその前に
***
H23.11.18
おしゃべりな鏡の前で、と繋がってます。
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