たまらなくなった。
彼から、あの言葉を貰った時は。
こんなに幸せなことがあるのだろうかと、耳を疑った。
決して切れることはないのだろうと、諦めていたのに。
彼らの赤い糸が、まさか、ほどけてしまうなんて。



「…悪い、」

「………」



だけど、ねぇ。
やっぱり、運命にしろ赤い糸にしろ、ある程度決まっているものなのだろう。
あちらが駄目になったからって、そう簡単に、こちらばかりうまくいく筈がない。
私たちの糸は、初めから、きちんと結ばれてはいなかったようだ。



「…お前には、悪いことしたと思ってる」



間に合わせというか、当てつけるかのように、"彼女"というポジションを埋めただけなのだと、分かってはいた。
でなければ、あれだけ苦しんだ別れのすぐ後に、私の申し出を受ける筈がない。

分かっていて、口にした。
そんな存在でも、構わないと思った。
彼の隣に、いられるのなら。

だから、おあいこだろう。



「……三郎次」



彼の、広くてゴツゴツとした肩が、小さく揺れる。
些細なその動きでさえ、私にとっては、愛おしくてならなかった。
あなたが私を見てくれなくても、私は、すぐ傍で、あなたを見ていたから。

…なんかね、色々、わかっちゃうんだろうね。



「…大丈夫。気にしないで」



地味な子は好きじゃないだろうと、好みでもない服装やアクセサリー、香水だって身に纏ってみた。
可愛いと評判だったあの子の次の彼女が冴えなかったら、彼のカッコがつかないんじゃないか、なんて思うと、いても立ってもいられなくなった。

でも、たぶん、逆効果だったんじゃないかな。

それに気づいたのは、つい最近。
今更、どう変えて良いものやらと考えている内に訪れたのが、今日だ。



「っ……悪い」



泣き出しそうになる彼は、酷く不器用で、脆くて、真面目な人。
やってることは褒められたものじゃなかったかもしれないけど、私がそれを責める筈がないのに。

伝わってなかった?
あなたのすべて、受け入れる覚悟は、していたつもり。

…出来ていたのかどうかは、別にしておいてね。



「…三郎次、」

「…っ…」

「ありがとう。好きだったよ」



私は、笑えていたのだろうか。
彼の前では笑顔でいようと、努めてきたつもり。

ひとつ、心残りがあるとすれば、名前を、呼んでほしかった。
彼は、おい、とか、お前、としか、私を呼ばなかったから。

…でも、それはそれで、良かったのかもしれない。

私が何より好きだったのは、きっと、あの子の名を愛おしそうに呼ぶ彼だったから。

あの子を想っている時の、やわらかい、はにかむような笑みに、焦がれていたから。

昔から、損な性格をしていると言われ続けてきた。
フられる理由は、いつも、重い、だった。

だけど、今回だけは、最後まで良い子でいたい。
彼にだけは、嫌われたくない。

必死になって、軽い女の子のフリした私に、彼は、気づいていただろうか。

いつしか笑顔をつくることが得意になっていた私と、情緒不安定だった彼のことだから、きっと、釣り合いがとれていた筈。



「さようなら」





ねぇ、ずっと、


好きだったよ。





主役にはなれなかった





***
H23.9.14

見栄と意地と、その末路 前 の女の子。
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