「きゅーちゃん」



なまえさんは、俺のことをそう呼ぶ。

間延びした声が、整った顔立ちをした彼女の口から飛び出すのは、何だか可笑しい。



「きゅーうちゃん」



普段は出さないような高い声で、甘ったるく、俺を呼ぶ。

その様が、あまりに愛らしくて、いつもドキドキしてしまう。

翻弄されていると言えば、そうだな。

それに対して、違和感も不快感も発生しないのが不思議だ。

愛しい、ただ、それだけ。



「きゅーぅぅうちゃんっ」

「はい?」

「聞こえてたでしょ」

「何がですか?」

「…意地悪いよ久作さん」



ぷくっと頬を膨らませて、恨めしそうな目線を向けてくる。

そんな顔、俺以外の誰にも見せないでしょう?

その事実が、酷く俺を喜ばせていることに、気付いてますか?



「拗ねないで下さい」

「拗ねてませんー」

「じゃあ、どうして俺の方見てくれないんですか」

「カッコ良すぎて直視出来ませーん」

「…そういうこと、言いますか」



この人は本当に、人を煽るのがお上手で。

年頃の男の前で、そんな台詞、言うもんじゃないですよ。

…まぁ、俺の前だけなら、構いませんが。



「なまえさん」



ぷいっと顔をそらしたまま、無反応。

さっきの仕返しのつもりだろうか。

俺にとっては、好都合でしかないけれど。



「なまえ」



ぴくっと、華奢ではない肩が揺れる。

上背があって、凛とした印象を持たれる、同性にも憧れられる彼女が、猫のように戯れては少女のように感情を露わにするのが、たまらなく可愛い。

背を向けている彼女の首筋に、そっと唇を寄せれば。



「っ…きゅう、ちゃん」

「何ですか?」

「……こしょばい」



すぐ傍にある耳が紅く染まる光景は、何度見ても嬉しい。

もっともっと、掻き乱されてくれると良い。

心臓を揺さぶられて止まない、俺と同じように。



「なまえ」

「っ…なん…」

「こっち向いて」



ゆっくりと振り返るこの間に、焦らされる。

早く、早く。


あなたをまるごと、俺に下さい。





ベルベット沈む





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