私の、所謂恋人と言うポジションを陣取っているこの人は、どこか猫に似ている。
何とも気まぐれで、特に、喜びの表現が分かりにくい。
満面の笑みでも浮かべてくれりゃ良いのだが、そっぽを向いたままぼそぼそと言葉を落とすことが多い。
口の中でもごもごされたって、私の耳にはノイズをキャンセルする機能など付いていないし、しばしば聞き逃してしまう。
すると、ウチのにゃんこ様は、眉間に皺をたくさん作って、途端に不機嫌になってしまうのだ。
女子より女子らしいめんどくささを持っている人なのである。
そんな彼氏様には、近頃、お気に入りの昼寝スポットがあるらしい。
それが、こちらであります。
「…ねぇ」
「んー…」
「左近さーん」
「んー…」
「…人の腹の上で寝るの、やめません?」
「んー…」
完全に無視である。
大雑把なO型とはよく言ったもので、この人の場合、相槌すらも大雑把で適当なことがよくある。
いい加減慣れてしまったので、別段腹も立たないが、自分の腹の上に頭を乗せられては、身動きがとれない。
「さこーん」
「んー…」
「動けないんだけど」
「んー…」
「ご飯作りたいんだけど」
「んー…」
やっぱり無視である。
いつものこととはいえ、こうも同じテンポ、同じトーンで、同じ音しか発しないとなると、流石にげんなりとしてしまう。
さらさらとした細い黒髪が、キャミソールとショートパンツの間のヘソ辺りにちらちらっと当たって、くすぐったい。
このまま、私が体を起こして立ち上がれば、彼の頭は部屋の床とご対面だ。
それはそれで見てみたい気もするが、理不尽にも後でぐちぐちと言われるのは自分なので、自重しておく。
「…さこーん」
「んー…」
「起ーきーて」
「んー…」
「…どいてくんなきゃ、ちゅー出来ないんだけど」
「…する」
この実のない問答が始まってから、初めてじゃないだろうか。
彼の口から、違う二音が零れたのは。
しかし、反応したのがこの台詞か。
何とも分かりやすい男である。
いつもこれくらい分かりやすければ良いのに。
文句のひとつでも言ってやろうかと開いた口は、有言実行と言わんばかりの彼によって使えなくなってしまったので、私はまた言葉を飲み込むしかなさそうだ。
先程までのやる気のない態度が嘘のように、彼の目が、よく光る。
ギャップとでも言いますか、この、偶に訪れるぐっと来る瞬間に、すっかり飲まれてしまう馬鹿な女が、私、みょうじなまえでございます。
もう暫く経てば、お腹を空かせた左近様に、飯はまだかとせがまれることでしょう。
はいはい、と言って支度を始める自分を容易に思い描けてしまった辺りで、思考が遮られる。
「なまえ。何考えてんの?」
アンタのことだよ。
当然の如く言葉は音にならないまま、自分を見ろと言わんばかりに強い眼差しを向けてくる彼に、翻弄されるしかないようだ。
今日も、また。
鳴かない猫
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H24.7.25
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