手を、伸ばしてみたい。

そんな願望を、より強く抱かせる。

そんな人だった。



「、なぁ」



その、特別低くない声は、普段よりもずっと、甘さを含んでいたように思う。



「こっち、向けよ」



じっと見つめられていることは、何となく感じるけれど。

その視線を、真っ向から受け止める勇気が、覚悟が、私にはまだない。



「、みょうじ」



お願い、口にしないで。

私のことなんて、あなたが呼ばないで。

あなたの前では、すべてが恥ずかしくなってしまう。

眩しくて、遠すぎて。



「待つから。急かしたり、しないから」



そうやって、先回りしないでほしい。

どうしてわかるの、
どうして構うの、
どうして、

求めてくれるの。

私には見えない未来が、あなたには見えると言うのか。



「信じて、くれないか」



あなたなら、
『信じろ』
そう言うと思ったのに。

もう、とっくにバレてるのね。

ほしい言葉を、花束のように綺麗に纏めて、後ろ手に隠している。
様子を見ながら、一本、次は二本と、上手に差し出すあなたに、たくさんのオンナノコたちは焦がれるのでしょう。

私だって、何ら変わりない。

大きく異なるのは、その心の強度かしら。
身の丈に合わない出来事を、素直に喜べるようなつくりをしていない。



「…、なまえ」



言い訳をいくつも並べて、理論武装を試みても、所詮、私のおつむだし、正常に機能も出来ていないし。

勝てる筈がないのだと、気づいてはいる。

だって、こんなに鼓動は大盛り上がりで、顔がとても熱いんだもの。



「…なぁ、」



あんなに素敵な彼が、オンナノコがすぐ好きになっちゃうような彼が、こんなにも切ない声を、誰でもない私に吐き出す。

その事実に舞い上がり、浮わつく心に気づいては、己を恥じるのだ。

そして、貫く沈黙。

私が、この先、惨めにならないように。



「…、」



小さく息を詰めて、諦めたように、少し長いため息を吐く。

気配だけでも、その姿がカッコイイんだろうなって、分かってしまうくらい。

あなたは、よく出来た人。

そんなあなたに追いかけられることが、酷く私を満足させる。

そして、そんな自身に、嘆きのため息を吐く。


早く、見限ってくれると良い。

あなたが想ってくれるような要素、私にはないよ。

どうか、その手を降ろして。

こんな、醜い心を知る前に。

どうか、



(いかないで)



シンデレラじゃない





***
H25.9.19

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