「…なまえ、」



自分を呼ぶ声で、はっと我に返った。

何がどうなって、今ここにいるのか、分からなくなってる。

ただ、あの映像が、頭に焼き付いてる、それだけ。



「…とりあえず、飲んだら?」


目の前に置かれた缶ビールに気づいて、力なくプルタブに指をかける。

いつもより重く感じるそれを起こして、倒して。

いつもの清涼感は、のどごしは、どこへいったんだろう。

ただただ、舌先に苦味を残していくだけ。



「…、可愛かった」

「そう?なまえの方が可愛かったよ」

「気休めは良い」

「僕は、なまえにはもう嘘吐かないよ。知ってるでしょ」



隣で、彼を見上げる、華奢な女の子。
細身の彼と並んでも、細いって感じるくらいの。
若くて、明るくて、…可愛かった。

私とは、正反対の。



「…なまえ、左近は、浮気なんてする子じゃないよ」



女にしては上背があって、肩幅だって広いし、冷たいとか怖いってよく言われるし。
毎回毎回、『もっと女らしいと思ってた』なんて言って、フラれるし。
コイツならって思ったら、浮気されて、結局フラれたし。

…やっぱり、私には、無理だったのかもしれない。



「…なまえ、また変なこと考えてるでしょ。すぐマイナスにとるの、悪い癖だよ」



別に、さっきのが浮気だなんて思ってない。
…疑う気持ちがない訳じゃないけど。

そんな子じゃない、私も、そう思ってるし、そう、信じたい。


…ただ、やっぱり、彼には、同い年ぐらいの、可愛い女の子が似合うなって、思った。

隣が私の時より、違和感がなかった。
そんな気がして。

自分だってまだ若い。
そう、思ってない訳じゃないけど…、
大学生と、社会人三年目とじゃ、やっぱり違う。

まして、彼が通うのは薬科大だから、六年制、まだ、あと、三年以上ある。



「…24で卒業したら、私は28、」

「…なまえ?」

「二年働いて、26、私は、30、」

「、なまえ、」

「五年…、五年も、待てないよ…」



仕事柄、毎日のように、お祝い事に触れる。

結婚願望だって、ないわけじゃない。
子供も、二人はほしい。

私にその気があったって、相手が乗り気じゃなきゃ、話は進まない。

まして、それを、学生に求めるなんて…、難しいのは、理解してたつもりだったけど。

改めて、現実を、思い知らされたようで。



「…焦ってるの?」



それをアンタが言うのか。

ゆとりのない心が、更に尖る。

別に、責める訳じゃないし、今更どうこう言おうとは思ってないけど。

伊作、私は、アンタと結婚したかったんだよ。



「…ねぇ、なまえ、」

「伊作、」

「…、なぁに?」

「…フラれたら、ヤケ酒付き合ってね」



そう言って、缶の中身を煽ってから、勢いよく潰した。

少し残っていた中身が、伊作の顔にかかったのが見えて、思わず吹き出した。





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H26.5.20
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