「ごめんね〜、無理言っちゃって」
「…いえ、」
ほんの数日前に会った先輩は、いつも通り、穏やかで、明るかった。
対する僕は、居心地の悪さを隠しきれずにいる。
あぁ、子供なんだって、また、思い知る。
「こないだ一緒にいた子は、友達?」
「あ、はい、クラスメイトです」
あの日以来、僕に気を遣っているのが分かって、それもまた居心地が悪い。
もうすぐ次の実習だから、それが始まれば、少しは薄れると思うけど。
女子ってのはまぁお喋りで、クラス全体に話が知れ渡っているものだから、めんどくさい。
放っておいてくれれば良いのに。
「そっか。大丈夫だとは思うけど、なまえにも伝えてあげた方が良いかもね。何ともなさそうな顔してても、気にしてることが多いから」
「…、はい」
僕よりずっと、彼女のことを知ってる。
そう、言われた気がして。
自分のことで頭がいっぱいで、あの時のなまえさんの表情なんて、覚えてない。
何ともない顔、して、たんだ。
「…左近、あのね、」
急に、空気が変わって、改まった声色で、話し出すから。
何か、聞きたくないことなんじゃないかと、思わず身構えた。
「僕となまえ、付き合ってたことがあるんだ」
頭を、思いっきり後ろから殴られたような、衝撃。
でも、違和感はなくて、あぁ、そうなんだ、って、他人事のように感じる自分もいて。
僕は今、どんな顔をしているんだろう。
「三ヶ月くらいだけどね。続かなくって」
三ヶ月。
僕と彼女が付き合い始めてから、半年は経ってる。
ほんの、少し、浮き上がって来る。
「別れた原因は、僕の浮気」
「………は?」
耳を、疑うしかなかった。
嘘だろう、そんなことが、あってたまるか。
言っちゃ悪いが、他の誰かの時に浮気しようが僕の知ったこっちゃないが、彼女は、なまえさんだけは、裏切っちゃいけないだろ。
元々、仲の良い友達だった筈なのに。
頭が、怒りで沸騰しそうだ。
「言い訳になるけど、僕、なまえには、一切手出してないんだ。あ、キスは一回したかな。でも、それだけ」
言葉が、ただの音にしか聞こえなくて、イマイチ意味が拾いきれない。
信じていたものが、崩れ去っていく感じ。
これを、虚無感、とでも言うのだろうか。
「その一回の後、すっごい罪悪感に襲われてね。気持ち悪くて吐いちゃったくらい」
気持ち悪い?
なまえさんとのキスが?
あんな気持ち良いものそうそうないのに、何を言ってるんだろう。
意味が分からない。
「やっぱり、なまえとはそういうことしちゃいけないんだと思ってさ。友達に戻ったんだよ」
…その時、なまえさんは、何を思ったんだろう。
何ともない顔、したのかな。
今も仲の良い友達同士、なんて、簡単じゃ、ないんじゃないか?
「すっごく勝手なんだけどさ、僕には、出来なかったから」
なまえを、幸せにしてあげてほしいんだ。
そう、続けた声に、嘘はないように思えた。
僕の、腹の奥の方にある渦が、悲鳴をあげた気がした。
***
H26.5.20
ALICE+