僕らしくない。
そんなことは、自分が一番よく分かっている。
だから、そんな目で見ないでおくれ。
叱ったりして、悪かったよ。
君は、僕を守ろうとしてくれただけなのに。
ごめんね、ジュンコ。
最近、何だかおかしいんだ。
自分でも思いもかけない行動をとっていることが、よくある。
さっきだってそうだ。
不用意に僕に近づいた彼女にも、勿論否はあるけど、彼女が近づいて来ていることに気付けなかった僕も、どうかしていた。
普段なら、すぐに気付くはずなのに。
だって僕は、まだたまごとは言え、忍だよ?
相手がくの一のたまごと言えど、それくらいは分かるはずなんだ。
本当に、どうしてしまったんだろう。
こんな自分は初めてで、戸惑ってしまう。
…心配してくれるのかい?
ジュンコは優しいね。
だけど、こんな自分を、嫌だとは思わないんだ。
それが一番、妙なのかもしれないね。
…適切な処置はしているし、新野先生もついて下さっている。
きっと、大事には至らないだろう。
すぐに、いつも通り、明るく眩しいくらいの笑顔が見れるはずだ。
…必要以上に気になってしまうのは、何故だろう。
何だか、そわそわしてしまうよ。
「…おや」
「あ…新野先生、彼女は…」
「もう大丈夫ですよ。じきに目を覚ますでしょう」
「そう、ですか…」
「顔を見てきなさい。その方が安心出来るでしょう」
「…はい」
静かに出て来られた新野先生と入れ替わるように、僕は医務室へと足を踏み入れた。
独特のにおいが立ちこめるこの場所は、嫌いではない。
彼女の白い顔は、一時よりも血の気を取り戻していた。
「…すまなかった」
ぽとり。
僕の吐き出した言葉が、彼女の心臓の辺りに落ちた気がした。
と言うのは、彼女に届いてほしいと言う、僕の願望から来る発想なのかもしれない。
言葉は、落ちるものではない。
実体など、無いのだから。
あたかもそうあるかのように表現することを、人は好む。
不思議な生き物だ。
自然と、当たり前のように同じ事をする僕もまた、人間なのだと思うと、何だかおかしかった。
「ん…」
「…気がついた?」
小さく息をこぼした彼女は、目を覚ましたようだ。
寝ぼけながら目をこすり、体を起こす。
ゆっくりとした動作だが、ヒトの正常な動きだった。
それに、酷く安堵した自分に、僕は再び違和感を覚えた。
「…い、がさき…?」
「あぁ。僕が分かるかい?」
普段なら、騒がしくて、時には疎ましく感じることのある彼女が、こんなにも大人しいなんて。
珍しくて、可笑しくて、思わず笑みがこぼれた。
「…なに笑ってるの?」
「っ…何にもないよ」
「うっそ。何にもないのに伊賀崎笑わないじゃん。私が笑わせようとしても嫌な顔しかしないし」
「だって君、うるさいだろう」
「うっ…、るさく、ない、よ」
「っ…そう言うことにしておいても良いよ」
悔しそうに、照れくさそうにそっぽを向く彼女は、年相応の色を纏っている。
見た目の印象なのか、大人びて見られることの多い自分とは、対照的だ。
それが、何だか、羨ましかった。
「…ごめん」
「…何が?」
「その…」
ちらっと、僕の肩の方を見るから、見当がついた。
僕に寄り添う小さな頭を撫でて、続ける。
「ジュンコのことかい?」
「あ…うん…えっと、」
「気付けなかった僕も悪かった。でも、君だって分かっていただろう?僕に急に近付いたりしたら、ジュンコが警戒するって」
「…うん。ごめん、なさい」
「無事だったから良かったけど…、」
責めるつもりなんてなかったのに、つい口を開けばそんな物言いになっていることに気がついた。
申し訳なさそうに口を結んで小さくなる彼女にも。
「…すまない。怒っている訳じゃないんだ」
「…ううん。私が悪いから。自業自得だし。嫌な思いさせてごめん」
「ジュンコもきっと分かってくれるよ」
「…心配してくれて、ありがと」
声が聞こえたと思った時には、彼女は既に布団の中だった。
頭からすっぽりと布団を被っている姿に、また笑みがこぼれた。
「おやすみ、みょうじ」
戸を開けて、気付けば居心地が良いと感じていたこの空間を後にする。
明日の彼女はどんな顔を見せてくれるだろうか。
明日の僕は、どんな顔を、感情を知るのだろう。
嫌いじゃないんだ、
この感じ。
…君も。
種を蒔く
***
H24.1.12
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