「…は?」
「だから、やめた」
「…マジで?」
「うん」
「…あり得ねぇ」
「マジだって。ほら、持ってねぇもん」
「…おめぇ、何か悪いもんでも食ったか?それとも頭でも打って…」
懐疑の目で、じっと見られる俺。
え、そんなにおかしい?
心の声が、音に、あるいは顔に出たんだろうか。
「おかしい」
と、腹の底から絞り出すような声で、作兵衛が言う。
「何で?禁煙したって言っただけじゃん」
「だけ、じゃねぇだろうが!少なくとも、おめぇの場合」
そりゃあ、一日一箱は当たり前、多い時には二箱なんて簡単に消費してたけど。
俺、やれば出来る子だから。
って言ったら、たぶんまた怒るから、口にはしないけど。
「だって、やめなきゃなまえがちゅーさせてくんないって」
「…お前が、誰が何言っても、本数減らすことすらしなかったお前が…、」
信じられない。
そう言いたいんだろう。
これは、言われなくても分かった。
作兵衛は相当驚いてるらしい。
…そんなに?
「おめぇの彼女、すげぇな…」
「うん。可愛い」
「いや、あー…やっぱ良いわ」
手のひらを目元に当てて、呆れたような息を吐き出す。
作兵衛、それ好きだよな。
よくしてる。
「一ヶ月禁煙出来たら、して良いって言われたからさ」
「あー…、そっか。まぁ、頑張れよ」
ホントは、考えるって言われたんだけど。
それじゃ、ホントにさせてくれるか分かんないじゃん。
だから、ちょっと強引だったけど、約束して貰った。
なまえはたぶん、約束したら破らないから。
「…年下だっけか?」
「三つ下。俺よりしっかりしてる」
「…だろうな」
何て言うか、俺が口にする前に、もう分かってるって言うか。
でも、何でもしてくれるって訳じゃなくて、甘やかされてはないって言うか。
なんか、ちょうど良い。
俺のほしいトコ、きっちりおさえてる感じ。
「早く嫁さんにしたいんだけどさ、言ったら引かれると思う?」
「はぁ!!?……三之助、マジで言ってんのか…?」
「大マジ」
ネコみたいな目かっぴらいて、わなわなと震えてる。
作兵衛、声デカイからビックリすんだよな。
そんなに叫ぶことねぇじゃん。
「…そうか…おめぇがそこまで考えてたなんて…」
「でもさぁ、まだあんまり触らせてくんねぇんだよなー」
肩抱こうとしただけで、嫌そうな顔して避けられるし。
まだちゅーもさせて貰ってないし。
俺、ちょっと可哀想じゃない?
「…おめぇが?」
「俺が」
「…あり得ねぇ」
本日二回目の、あり得ねぇ。
そうだよな、俺もそう思う。
もう、付き合って一ヶ月以上経つのに。
そろそろ、ぎゅーとかちゅーぐらいさせてくれても良くね?
「あの、あの手の早い三之助が…」
「俺、我慢すんの大変なんですケド」
「三之助が、我慢!?いつ覚えたんだそんなお利口なこと!?」
「だってなまえすげー嫌がるし」
「…思い通りにならねぇ女は容赦なく捨ててきたおめぇが…?」
「なまえに捨てられんの嫌だし」
「…三之助、変わったな…」
あれ、なんか涙ぐんでない?
またどっかトリップしてんじゃね?
作兵衛、いつも人の話聞かないもんなー。
慣れてるし、良いけどさぁ。
「…三之助!!俺は応援するからな!困ったことがあったらいつでも言えよ!」
「え、あー、うん?」
がしっと、両手で右手をとったまま、俺の目をガン見しながら言う作兵衛は、ちょっと怖い。
何でそんな盛り上がってんのか知んねぇけど、俺らを祝福してくれてるってことだよな。
それは嬉しい。
作兵衛だから、余計に。
「あー、なまえ紹介するし、また左門呼んで飲もーぜ」
「おっ、おぉ…そ、そうだな…」
「え、なに?ヤダ?」
「そうじゃねぇけど…、なんか、怖い」
「え、何で?」
さっと目逸らされたの、ちょっとショックかも。
応援してくれんじゃなかったっけ?
むくれっ面になりかけた時、スマホがピコピコ光った。
…なまえだ。
直感的に思って、急いでフォルダ開けたら、やっぱりなまえだった。
さっきとは打って変わって、俺の顔、ゆるんでると思う。
俺の目の端に映る作兵衛が、呆れた顔で、こっち見てた。
目に入れてみる?
(たぶん、痛くない)
***
H25.7.27
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