「みょうじ、それ取ってくれないか?」
「あ、はい、どうぞ」
…ついに来た。
三之助の、例の彼女と対面する日が。
…そう、気を張ってたんだが…、必要なかったようだ。
何てことはない、普通の、綺麗めの女の子で、三つ年下と言うには、確かにしっかりしてる。
気がきくと言うか、一歩引いて見ていると言うか。
「なまえー」
「これですか?」
「そー。さんきゅー」
付き合って二ヶ月とは思えない程の息の合いように、感心する。
…息が合うと言うより、彼女が三之助に合わせてるだけなんだろうけど、な。
左門なんて、この二人の空気にすっかり馴染んでる。
まぁ、左門はいつでもそんな感じだ。
「富松さん、…要ります?」
「あ、おぉ。悪いな」
深い茶色の髪を、上の方でひとつにまとめてるのが、よく似合ってる。
特別女らしいって感じじゃねぇが、かと言ってがさつでもない。
程良く品があって、サバサバしてる。
そんな印象だった。
「なぁなまえ、あれ食べたい」
「え、小松菜の煮浸しですか?切り干し大根?」
「それ。煮浸し」
「お酒のあてにならないと思いますけど」
「食べたい」
「…はぁ。分かりました」
俺たち三人が"飲み"となると、必ずと言って良い程、場所は三之助の部屋になる。
アイツの実家が、酒屋だからだ。
居酒屋に行くより、安くて良い酒が手に入る。
だから、酒は三之助、つまみや飯は俺と左門が担当、ってのが、暗黙のルールになってる。
左門は割りと何でも飲むが、三之助は、ビールぐらいしか飲まない。
夏は冷酒、冬は熱燗を、偶に口にする程度だ。
俺は大体、ビールと焼酎。
芋よりは麦派だな。
キッチンに向かった彼女は、初めに注いだ梅酒がまだ空いてない。
酒が強くないのか、遠慮しているのか、俺にはまだ、よく分からなかった。
「三之助、みょうじ、可愛いな」
「だろ?可愛すぎて色々やべーんだけど」
「そういえば、ちゅーは出来たのか?」
「もち。ッちょーっっ可愛かった」
「良かったな!良い嫁さんが見つかって!」
「まじで。ただなぁー、なまえツンデレだからなー」
「そうなのか?三之助にだけじゃないか?」
「やっぱそう思う?やっべ何それ可愛いなまえまじ可愛い…」
「メロメロだな三之助!」
話す内容とオーラはでれっでれだが、表情自体はさして動く訳じゃない。
三之助は、大体そんな感じだ。
そんなにうまくいくのか…、疑う気持ちがなくはないが、そうあってくれと、願わずにはいられない。
何しろ、あの三之助が、こんなにも大人しくなるなんて。
誰も想像出来なかった筈だ。
「三之助は、みょうじのどんなところが好きなんだ?」
「んー?全体的に好きなんだけどさぁ、こう、一緒にいると落ち着くって言うか」
「三之助の口からそんな台詞が出るなんて、驚きだな!」
「え、何で?」
別に弱い訳じゃねぇから、呂律が回らなくなることもないが、いつも以上に陽気になってきてる左門は、空の瓶を手に、楽しそうに笑う。
首を傾げながらビールを口に含む三之助も、楽しそうだ。
やっぱり、俺は、こいつら二人と飲むのが一番好きだな。
「あ、なまえ、出来た?」
「まだです。味、しゅんでなくて良いならどうぞ」
「ヤダ。しゅんだヤツが良い」
「なら我慢して下さい」
「んー」
キッチンから戻った彼女と三之助の会話を聞くと、何だか安心した。
お互い、表情を崩さず、テンポ良く話を進める。
三之助の発言は、しばしば、意味の繋がりにくいものがあるが、彼女なら、うまく拾ってくれそうだ。
「みょうじは、三之助のどこが良かったんだ?」
唐突に、左門のよく通る声が響いた。
…それを聞くのか。
今、俺も、当事者の三之助もいる前で。
そりゃ、酒が入ってはいるが、まだまだ大したことない。
左門なら、酔っていようがいまいが、平気で聞いてしまうだろう。
「……はぁ、どこでしょう?私にも分かりません」
「えっ、ちょ、酷くね?なまえそれ酷くね?」
「すみません、嘘が吐けないもので」
「なんかもっと酷くね!?」
カラカラ笑う左門と、焦ったように騒ぐ三之助とは対照的に、彼女は淡々としてる。
…何となく、彼女とは、うまくやっていけそうな気がした。
祝杯をあげよう
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H25.8.3
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