「…知ってますか?夏風邪は、馬鹿がひくんですよ」



盛大なため息をついたなまえは、呆れた目で俺を見る。

悪態吐いたって、電話ひとつで駆けつけてくれるんだから、俺って愛されてるよな。

冷えピタの箱を開ける姿が、昔の記憶と重なった。



「はい、体拭いて下さい。汗かいたままだと冷えます」

「んー…、なまえが拭いて?」

「………、Tシャツ脱いで下さい」

「えっ、マジ!?」

「さっさと脱がないと拭きませんよ」

「脱ぐ!超脱ぐ!!」



タオルを持ったまま、目線を逸らすなまえが可愛い。

まさか、ホントにやってくれるなんて思わなくて。

テンション上がったついでに、熱も上がったかもしれない。



「…はい、あとは大人しく寝てて下さい」

「んー…、お粥は?」

「…あとで作ってあげますから、寝て下さい」

「んー…なまえ、」

「…ちゃんと、いますよ」

「…ん。おやすみ」



おやすみなさい、そう、返ってきたのを確認してから、目を閉じる。

何で分かったんだろう?
より、
分かってくれて良かった、
の方が、ずっと強い。

風邪引いたから看病して、
なんて言ったの、いつぶりだっけ。

一人で過ごすには広いこの部屋にも、随分前に慣れたけど、寂しくないって言えば、嘘になるかもしれない。

たぶん、もっと前から気づいてたけど、認めたくなくて。

認めてやっても良いかな、なんて思ったのは、この、手のひらのあったかさのせいかもしれない。



「…早く、良くなってくれないと、困ります」



意識が奥へと引っ張り込まれる最中、小さく響いた台詞が、気のせいじゃないと良い。

ガラにもなく、そんなことを思った。





(ごめんね)





「……、腹、減った」

「…おはようございます。ちょっと待ってて下さい」

「あー…、まだ、良いや」

「…食べないと、元気出ないでしょう」

「食べる、後で」

「…分かりました」



キッチンに向かおうとするなまえの腕を掴んだのは、たぶん、無意識だった。

その手がゆるゆると移動して、白くて細い指先に触れる。

やっぱり、あったかい。



「…なまえ」

「…はい」

「なまえ、なまえ、」

「次屋さん」

「…、うん」

「ちゃんと、います。何なら、捕まえといて下さい」



だから、大丈夫です。

そう、呟いた声は、控えめで、消えてしまいそうだった。

それは、断言し難いその根元の原因は、俺にあるのか、なまえ自身にあるのか。

いずれにせよ、俺に出来ることと、今したいことは、一致しているらしい。



そっと抱き寄せて、腕に閉じ込めたら。

あったかくて、やわらかくて、

なんか、泣きそうになった。









(良いんです)





***
H25.8.22

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