何となく。

何となく、自分の中で、区切りがついた。

はっきりとは言えないけど、そんな気がした。

まだ、曖昧で、もやが晴れた訳ではなかったから、何か、形にしたくて。

ただ、そんな理由だったから。

…こんなことになるなんて、思いもしなかった。



「…あの、次屋さん…?」

「…何で…?」

「…何で、と言われましても…」

「何で切った…?」

「…切りたかったから。何となく」



そろりと言葉を吐き出すと、次屋さんは、カーペットの敷かれた床に突っ伏した。

私の気のせいじゃなければ、……泣いてなかった?

彼の行動の意味が、私には理解出来ない。

やっぱり、彼は、よくわからない。



「なまえの髪、長くて綺麗で、好きだったのに…」



…残念ながら、気のせいではないようだ。

上体を起こした彼の目から、ぽたぽたと涙が零れ落ちている。

何故そんなに嘆いているのか、尋ねるべきなのだろうか。
あるいは、何が悪かったのか分からないが、謝るべきなのか。

しょんぼりとしてしまった彼の肩に手を置き、宥めるように背を撫でてみる。

すると、俯いた顔を少し上げて、ちらちらっとこちらを窺ってくる。

その目に力はなく、何だか、縋るように見えたから。
少しだけ、動揺した。



「…何で切ったの」

「…何となく、です」

「…なまえ、俺のこと、キライ?」

「何でそうなるんですか…」

「なぁ、」

「嫌いじゃないです」

「じゃあ、スキ?」

「はい」

「なぁ、」

「…好きですよ」



半ば強引に言わせられたようなものだけど、揺らいでいた目に、少し、安堵の色が混ざってきたように見えたから。
気にしないことにした。

何だかんだで、彼の小さな要求を、可愛いと、…嬉しいと、感じるようになってきたことに、気づいてはいる。

と同時に、恐怖も感じるようになった。

彼の、私を繋ぎとめようとするような言動の源は、何なのか。

物珍しい?
作兵衛さんや左門さんの口ぶりからすると、今まで彼の近くにいた女性は、私とは異なるタイプらしいし。

甘えたいだけ?
あのお二人から聞いた話では、物心ついた頃の彼の傍には、母親がいなかったとのことだから。
彼に限らず、男性は、女性に母性を求めるものらしいし。

…いくら考えたって、そんなんじゃないと、打ち消してしまう自分がいる。

少なくとも、私自身は、そうではないと感じているし、それを望んでる。

いつの間に、こんなに強くなってしまったのだろう。

飽きられて、愛想尽かされて、捨てられたらどうしよう。

ガラにもなく、そんな風に、考えてしまう。

今となっては、彼のいない生活が、味気なく感じてしまうんだろうな。
こんな筈じゃ、なかったのに。



「俺も好き」



いつの間にか背後に回り込んでいた彼が、締まりなく笑うから。

ぎゅっと、甘えるように抱きついてくるから。


自惚れても、良いでしょうか?











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H25.8.26

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