「…彼女、連れて来たいんだけど」
シャッターを下ろす背中に、声をかけた。
仕事のこと以外で、自分から話しかけたのは、いつぶりだったか。
振り返った親父が、見たこともないような、穏やかな顔してたから。
なんか、居たたまれなくなって、そっぽ向くしか出来なかった。
「ほぉ、これが三之助の嫁か。なかなか可愛いな!」
「七松先輩、人に対して"これ"なんて言うもんじゃありません」
「細かいことは気にするな!」
「少しは気にして下さい…」
小さな声で、
「すまないな、あの人に悪気はないんだ」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
なんて会話が聞こえた。
あの二人の問答は、昔から変わってない。
「えっと…、次屋先輩の禁煙を成功させた子、だよね?」
「え…、まぁ、はい」
「凄いよね。次屋先輩は、誰が何を言っても変わらなかったのに」
「おぉ、そうだった!お前、なかなかやるな!」
「は、はぁ…どうも」
俺の禁煙は、作兵衛たちだけでなく、誰もに驚かれた。
俺だってやれば出来るし、と言えば、きっとうるさいから、言わないけど。
ほら、なまえだって、呆れてる。
「でも、ちょっと意外でした。話で聞いてた時は、どんな子かと思ったけど…」
「だよね。もっとキツイ子かと思った」
「三之助を御せるだけの力があると言うことだからな。しっかりしてるじゃないか。これじゃ、どっちが歳上か分からない」
「…んなことねぇし」
「そう言うなら、お前ももう少ししっかりしろ」
各々、好き勝手言うのはいつものことだけど、なんか、今日は調子が狂う。
七松先輩は相変わらずだけどやっぱペース早いし、金吾はそろそろヤバイ。
シロはけろっとしてるけど、心なしか、滝夜叉丸のグラスが空くのが早い。
なまえは、グラスを持ってはいるものの、あんまり進んでない。
決して強くないし、眠そうにしてるなまえは可愛いから、なるべく見せたくない。
いくら、このメンバーでも。
「三之助は、骨のある男だ。私が保証する。幸せにして貰え」
「…はい。そのつもりです」
「んん、三之助、イイ女じゃないか!」
「うっす」
「次屋先輩には勿体無いくらいですね〜」
「こら、シロ、お前はもう少し落ち着きなさい」
「次屋せんぱいが結婚したら、こんな風に、みんなで飲めなくなっちゃうんですか…?」
ぽつり、金吾が零した言葉に、一時、空気が固まる。
見回せば、おんなじ、きょとんとした顔ばっかりで、なんか、安心した。
「そんなこと、ないです」
この静寂を裂いたのが、誰でもないなまえの、澄んだ声だったから。
ぜんぶ、許された気がした。
はじまる
***
H25.8.30
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