しんと静まり返った中に、小さな物音だけが響く。
BGMの鳴らない店内が、業務の終わりを告げる。
こんな日に限って、ゆとりのあるスケジュールだなんて。
自分の頭の中ばかりが忙しい。
なまえが、飲みたいから付き合え、なんて言い出す時は、大抵、何かを決めた時。
彼女は何も言わないし、すぐに無防備な酔っ払いになってしまうから、はっきりと聞いた訳じゃないけど。
たぶん、間違ってない。
チカチカと光る画面に指をかけて、さらさらと返事をする。
手慣れた作業だなぁ。
この文字を受け取る相手に、自分が何も求めてないことは、よく分かってるのに。
…こんなだから、いつまで経っても、地に足がつかないんだろうね。
気を遣わなくて済むし、甘さがなくて胃もたれしない。
何より、飽きない。
でも疲れない。
だから、なまえは好きだ。
時折垣間見えるだらしなさも、ちょうど良い。
常に傍に、じゃなくて良いけど、いつでも手の届く所に置いておきたい。
そんなワガママは通用しない、とでも言いたいのだろうか。
彼女の落とした短い言葉たちが、頭を巡る。
何度も、何度も。
彼女らしいと、安心したのは嘘じゃない。
それ以上に、頭を占拠する感情があることに、面食らっているだけで。
思っていた以上に、彼女を手放すことを、惜しいと感じているらしい。
…余程、居心地が良かったんだな。
"次"がそう簡単に見つかるとは思えない。
"カノジョ"じゃなく、"友達"だから、この距離感でいられる。
関係性が変われば、今までは気にもしなかったことが気になったり、求めることが増えてくる。
俺は、なまえが変わってしまうのが、こわい。
「…もしもし?…うん、月曜は空いてるよ。仕事終わったら連絡して。…うん、じゃあね」
なまえからの電話は端的で、用件を伝えるのみ。
メールやラインは、あまり好きじゃないらしい。
送ったことも、届いたことも、忘れてしまうことが多いから。
物ぐさな彼女らしい理由だと思う。
なまえの方から、会える?だなんて、珍しい。
大方、酔っ払いの介抱のお詫びかな。
案外、律儀なところがあるから。
さて、月曜までに、整理つけとかないと。
顔を合わせれば飛び出してしまいそうな言葉を、仕舞い込んでおかなきゃ。
まだ、失いたくは、ないから。
H28.6.10
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