適当な所で、と言ってはいても、小洒落た店を見つけてくる。

先に入ってるから、と、送られてくる情報を頼りに向かえば、いつもそんな感じ。

仕事帰り、というより、普段から身なりが適当なもので、場違いな気がしないでもないが、いつものことなので、すっかり慣れてしまった。

黒パンツに、適当なシャツを合わせておけば良いだろう。
そんな体たらくな自分とは対照的に、これまた小洒落た格好で、椅子に腰掛けて私を待つ姿も、見慣れた。

それなりに、付き合いは長いから。



「お疲れ。オレンジ?」

「ん」



酒は飲まない、飲めないから、ジュース。
大体、オレンジ。
行動パターンや思考なんて、とうにバレてる。

それをどうこう思うことも、特にない。



「はい、乾杯」

「ん」



合わせるグラスには、烏龍茶が揺れてる。
"飲んだら?"と言ったことはあるけど、"酒は付き合い"らしい。

私に気を遣うとか、そんなんじゃない筈。
そもそも私は、自分が素面で周りが酔っ払ってても、気にしない。



「髪、大分伸びたね。どうする?」

「んー…ぼちぼち切るかな」



見た目への頓着がないから、邪魔にならなきゃ良い、ぐらいにしか思ってない私が。
胸辺りまで辛抱したのは、"伸ばしたら?"の一言があったから。

でも、もう、潮時。



「んー…、そうだね、肩ぐらいかな」

「ううん、ショート」



軽く目を見開いて、こちらを見る。

別に、珍しくないでしょ。
私なんだから。



「あー…そんなに?せめてボブにすれば?」

「ううん、ショート。駄目ならどっかで切るわ」



店が終わってからならタダで切れるよ、なんて言葉に甘えて、いつも頼んでたけど。
それも、もう終わらせなきゃいけないのかもしれない。

今までの当たり前から、抜け出すんだから。



「別に駄目じゃないけど…。カット代浮いた方が良いでしょ。そこまでして切りたい理由でもあるの?」



切りたい理由、ね。

終わらせたいから。

それに尽きる。

かなわないなら、断ち切るしかない。

…こういう私が、良いんでしょう?



「完全に傷む前に、切りたい」



沈黙が、胸を突き刺すようで、痛い。

誰にも文句は言えないけど。

どれもこれも、選んだのは、自分なんだから。



「…なまえらしいね」



酒が飲めたら良かったのに。

こんなに強く思ったのは、初めてだった。





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H28.6.26


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