どれくらい、こうしていただろうか。

呆然と立ち尽くすしか、出来なかった。

再び一人になった店内に、唾を飲み込む音が響く。


…何を、しているんだろう。

『言われたくないと思うけど、ごめん』

なんてことを、言わせてしまったんだろう。

何となく、分かっていたから、感じていたからこそ、そうならないように、言葉を重ねてきた。

それは、ある意味で、実を結んでいたらしい。

出なければ、あんな言葉は出てこない。


…言われたくは、なかったよ。

そうでなければ良いと、ずっと、願ってた。

念じながらかけてきたそれは、なまえにとって、呪いのようなものだったのかもしれない。

なまえには、手の届くところにいてほしい。

でも、男としての俺を、好きになってほしかった訳じゃない。

友達で良かったんだ。

なまえには、変わってほしくなかった。

俺の顔色を伺うようなこと、してほしくなかった。

…なんて。

そうさせたのがどこの誰なのかは、よく分かってる。


…分かってたんだ。

なまえは変わっちゃいない。

どちらかと言えば気を遣う方だし、空気が読めない、なんてことはない。

口が上手い訳ではないから、余計なことを言わないように、自然と口数が減るだけ。

はっきり、さっぱりしているのは確かだけど、冷たくない。

わざわざ、人が嫌がることなんてしない。
むしろ、それを避けようとして、誤解されることの方が多いくらい。


分かってたんだ。

本当にこわいのは、自分が変わってしまうことだって。

初めて知るなまえの涙が、こんな形になるなんて。


いっそ、出会わなければ良かった。

知らなければ良かったのに。


この期に及んで、まだ逃げ腰を引きずっている自分が、憎くてたまらなかった。






***
H28.8.25


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