「…斉藤さん?」



その一声で、我に返る。

仕事中なのに。

駄目だな。

全く抜け出せない。

もう、ひと月経つのに。



「ごめんごめん、なぁに?」



急いで頭と表情を戻す。

仕事に響くようなヘマはしないと、強く念じてるけど。

このままじゃ、何かしらやらかしてしまいそうだ。



なまえと会わない期間がこんなに長いのは、久しぶりだ。

全くない訳じゃないけど、あまりない。

唐突に誘っては、お茶でもしながら、ご飯でも食べながら、ゆっくり話すだけ。

大抵は、大したこと話してないし、口数が少ない時もある。

それでも、気まずさはなくて、それこそ、空気のようで。

空気にしてはあたたかかったし、必要だと何度も思った。

本物と違って、なくても息は出来る。
生きてはいける。

だけど、息苦しい。


いつだって、無理してる訳じゃない。
息は抜いてるし、それなりに要領良くやってるつもり。


ある程度、自分で何とか出来る。
もう、良い大人なんだし。

そう、ある程度は。


…知っては、いたんだ。

本当に気を抜けると言うか、そのままでいれると言うか。
どれだけ救われてるかって。

その大切なものを、誰より、自分が壊してしまいそうで、こわかったんだ。

いつか、なまえに拒絶される日が来るかもしれない。

どんな自分も受け止めてくれると思っていたのに。

そうなった時、自分を保てる自信がなくて。

ただただ、こわかった。





「お先ですー」



明かりの減った店内から、人気が消えていく。

何とか、何とか、って感じだったな。

本当に、気をつけないと。

いつまでもこれでは、もたない。



『もう、しんどい』



どんな気持ちなんだろう。

好きにならないでくれ、と言われながら、傍にいるのは。

こんな男、俺は嫌だな。

自分勝手にも程がある。


この後に及んで、まだ、まだ逃げ腰で、腰の重い自分が、反吐が出る程嫌いだ。

いつか、なまえが言った。

『そういうトコは嫌い』

俺も、そう思うよ。


だけど、

それでも。






H28.9.20


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