画面に映った文字に、呼吸を忘れて見入ってしまった。

息苦しさで我に返っても、画面に手をかけられないまま。

音の鳴り終えたそれを、そっと撫ぜる。

…間違いない。

タカ丸だ。


あれから、音沙汰なかったのに。
…当たり前、なんだけど。

何か、借りっぱなしにしていたものがあっただろうか。
こっちが貸してる、ってことはないと思う。
彼は、その辺ちゃんとしてる。
私は、借りたことすら忘れてしまいがちだから、あまり貸し借りはしてない筈。

…何か、用があるんだろうか。
それとも、相手を間違えてかけたの?

どちらにしても、確かめないと。
大切な何かが、あるかもしれない。

…なんて。

あんなこと、しておいて、
あんな始末の悪い、終わり方をしておいて。

それでも、例え間違いでも、連絡が来たことに、こんなにも喜んでしまうなんて。

あぁ、馬鹿だなぁ。

もう、馬鹿で良いよ。

もう一度、声が聞けるなら。


そっと、着信履歴に指をかける。





『…なまえ?』 



あぁ、夢みたい、なんて。
舞い上がってしまう。

もう一度、名前を呼ばれる日が来るなんて。

こぼれ落ちてしまいそうになる涙を、ぐっと堪える。



「…うん」



何て返事をして良いか分からない。

脈打つ音が近い。

これから飛び出す言葉が、私に都合の良い話である筈がないのに。



『今から、会える?』



…奇跡と言うのは、そうそう起きない。

でも、存在しない訳じゃないらしい。

ここひと月くらい、半分程しか開いていなかった目が、久しぶりに光を吸ったようで。

単純。

でも、それで良い。

嬉しいことに変わりはないから。


違える筈のない、返事。

大事に音にする。



『家にいる?』

「…うん」

『迎えに行くから、待ってて。着いたら連絡するよ』

「……うん」





通話が終わっても、余韻が全身を支配する。

ずっと、ふわふわしてるような。

…と、思ったけど。

違和感が、それを阻んでる。

いつもとは違う台詞。

そりゃ、状況が違うから。

それは、そうなんだけど。


『迎えに行くから』

…そんなの、聞いたことない。

わざわざ、来てくれるの?

タカ丸だって、仕事終わりでしょう?

職場には、電車通勤の筈。

車は、自分の部屋からそう遠くない実家のものを、割と自由に使える、って聞いたことがある気がする。

迎えにって、車でってことでしょう?

…どこに行くんだろ。



あれこれ思案している内に、随分と時間が経っていたようで。

突然鳴り響いたインターホンに焦って、足を滑らせてずっこけた。



…考えるの、やめよう。






H28.10.8


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