「なぁ、聞いた?」

「斉藤んトコの話?」

「そう」

「あぁ。別れたんだってな」


なまえさんは俺のバイト先の後輩だ。
つっても歳は一個上なんだけど。
しっかりしてて、頼れる姉さんって感じ。
ほぼ毎日入ってるから、今では俺より先輩かと思うくらい。

なまえさんは、斉藤って人と付き合ってた。
過去形なのは、さっき兵助が言った通りだ。
斉藤さんは、兵助と同じバイト先の後輩だったらしい。
歳はなまえさんと同じで、兵助の一個上。
つまり、俺となまえさんの関係とほぼ同じってこと。
…まぁ、仕事の出来で言えば、雲泥の差らしいけど。


「久しぶりにアイツから電話があったから、何かと思えば…」

「フったの、斉藤さんからなんだろ?」

「らしいな。そのくせ、相当参ってる。なまえさんは?」

「ほとんどいつも通りだけど…まぁ、ちょっと無理してる感じはするな。仕事中には出さねぇけど」


昨日、一緒に入った時に、事も無げに伝えてきた彼女を思い出した。
『タカ丸と別れた』
そう言って苦笑した時、あぁ、なまえさんがついに愛想尽かしたんだと思った。
けど、二言目には、
『フられた。好きな人いるんだって』
呆気にとられて、しばらく開いた口が閉まらなかった。
好きだと言うのはいつも斉藤さんで、彼女はいつも適当に流してたから。
何でこの人と付き合ってんだろ、と何度思ったか。
でも、ウチのバーまで会いに来て、彼女の仕事が終わるのを待ってる斉藤さんに、文句は言ってもどこか嬉しそうななまえさんがいたから。
ちゃんと、お互い想い合ってんだなー、とか考えてたっけ。

だから、初めは信じられなかった。
まして、なまえさんがフられるなんて。


「自分から言い出したくせに、情けないよな…」

「まぁ、否定はしないけど」

「…はっちゃん、怒ってんの?」

「怒ってはないけど…ムカつく」

「怒ってんじゃん」


なまえさんは、俺にとって、姉ちゃんみたいな存在だったから、斉藤さんと付き合い出した時も、俺は気に入らなかった。
なんかチャラいし、なよなよしてて甘え上手って感じの人だったから、また、なまえさんが無理することになるんじゃないかと思うと、嫌だった。
そう言う俺も、なまえさんには結構甘えてるトコあるけど…。
何かと頼りなくても、彼女を想う気持ちだけは認めてたから何も言わなかったけど、こんな終わり方って、ないだろ?


「なまえさんの何が悪いって言うんだよ…」

「悪いとか、そういう問題じゃないんだろ」

「だったら、どういう問題だよ」

「彼女以上に大きな存在がいるんだろ」


何だよ、それ。
勝手過ぎるだろ。
兵助は、何かを知ってるような顔してる。
お前と違って、馬鹿な俺には分かんねぇよ。

俺は、ただ、あの人が、
無理した笑顔じゃなくて、
いつもみたいに、
楽しそうに笑っていてくれたら。

そう思うだけだ。

別にこれは、恋じゃない。

でも、俺にとって、
すげぇ大事な人だから。

理由なんて、
それで十分だろ?




彼女のこと




***
H23.3.30

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