「…切ったね」
俺の顔を見て、開口一番、彼女が放ったのが、これ。
なまえらしくて、ほっとする。
「まぁね。完全に傷む前に、と思って」
物珍しげに、じっと見つめて来る。
ここまで短くしたのは、かなり久しぶりかな。
首元が涼しい。
ちょっと、心許ない気もするけど。
「…切ったね」
それはさっきも聞いたよ。
目を瞬かせて、じっと見つめて来る。
驚いたり、気になることがあると、なまえはいつもこんな感じだけど…、
「ちょっと見過ぎ。変?」
何だか少し、居たたまれない。
そんなに驚くこと?
髪を切っただけなのに。
…そりゃ、気持ちを切り換えたいとか、そういう意図はあったけど。
バッサリいく時は、大体そういうものだと思う。
「あー、ごめん。なんか、違うなと思って」
そう言いながらも、まだ見つめて来る。
こんなの、いつものことなのに。
なまえの中で納得すれば、自然と視線は外れる。
気にせず、放っておけば良い。
知ってる、のに。
「さっぱりして、良いんじゃない?」
…息を飲む音が聞こえてやしないか、ひやっとした。
なまえは、いつから、こんな顔で笑うようになったんだろう。
こんな風に、柔らかく微笑むなんて、知らなかった。
単に、見てなかっただけかもしれない。
なまえは、前から、
もしかしたら、俺が知るもっと前から、
ちゃんと、女の顔をしていたのかもしれない。
「…、なら良いけど」
なまえは、変わってやしない。
ただ、少し、前よりも、伸びやかに映る。
落ち着かないのは、俺だけ。
「どんな髪でも、タカ丸はタカ丸でしょ」
なまえは、どこまでもなまえで、
当たり前のことなんだけど、
それが、何だか胸に来る。
少しずつ動き始めたものを、知ってるくせに、見ようとしない自分には、本当に呆れる。
性格、性質は、そう簡単には変わらない。
でも、
有耶無耶にするのも、
見て見ぬフリするのも、
もう嫌だ。
逃げたって、どうせまた返ってくるんだから。
「…そうだね」
とは言え、初めの一歩は、そう簡単に踏み出せるものじゃない。
出来たら、こんなに苦労してない。
…歩き始めてしまえば、すんなりと行くのだろうか。
…どうかな。
誰でもない、俺のことだから。
「私も、次はもっと切ろっかな」
「…まだ切るの?」
「え、駄目?」
「駄目じゃないけど…、俺は、長い方が好きだけど」
"踏み出す"と言うことを、難しく考えすぎていたのかもしれない。
なんだ、こんなことで良いのか。
もっと、もっと前の自分なら、平気で言えていたかもしれないくらい、何でもないこと。
思ったことを、素直に口にすれば良いだけ。
「…じゃあ、伸ばす」
端的に返ってくる台詞は、
さして時間をかけずに決断するところは、
なまえそのものだけど。
その声色が、
少し弾んでいるのは、
その頬が、
少し緩んでいるのは、
存外、悪い気は、しないね。
(もう少しだけ、待って)
***
H29.3.13
お付き合いありがとうございました◎
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