アイツがバイトをやめてからも、年に何度かは会っていた。
歳の割に幼い喋り方だし、どんくさくて頼りない。
何度叱りつけても、すぐにへらっと気の抜けた顔で笑うもんだから、怒る気すら失せることも多かった。
フラフラとしている印象が強いから、女遊びも激しいんだろうな、と思ってた。
実際、バイト先でも、スタッフ、客を問わず、よくモテててたし。
でも、よくよく付き合っていくと、そうでもないことが分かった。
聞けば、ずっと好きな人がいるから、だそうだ。
案外一途なんだな。
そう言うと、
案外って酷いなぁ。
苦笑して返すアイツを、ちょっと見直したのを覚えてる。
いつもの甘えるような言い方じゃなくて、愛おしくて苦しい、そんな風な声色だったから。
真面目な顔も出来るんじゃないか。
「なまえさんと付き合う前かららしいしな」
「…は?どういうことだよ?」
「斉藤がずっと好きだって人。幼なじみとか何とか」
「なん、だよそれ…じゃあ、他に好きな相手いるのになまえさんと付き合ってたってことか…!?」
「まぁ、そうなるな」
「ッアイツ…!!」
「落ち着けはっちゃん。なまえさんと付き合う前に、斉藤なりに整理はつけてたみたいだから」
「全然、相手にされてないんだよね」
「幼なじみ?」
「そう。歳も彼女の方が上だし。弟、ぐらいにしか思われてないよ」
相手にされていないのが分かりすぎて、堪えきれなくなったらしい。
十年以上も一人を想い続けるって、なかなか出来ることじゃないと思う。
そんな恋でも、終わりって来るんだな。
なまえさんと付き合い出してから、会えば惚気ばかり聞かされてウンザリする程で、順調そうだったし、
実際、彼女に会った時も、落ち着いたお姉さんって感じで、アイツに似合ってると思った。
だから、吹っ切れたと思ったんだ。
…でも、違ったんだな。
「なまえちゃんはさ、すっごくしっかりしてるんだ」
「お前と同い年とは思えないよな」
「う…。でも、ホントそうかも。嫌そうな顔はするけど、何だかんだで、何でも聞いてくれるし…」
「で、自分は甘えっぱなしだ、と」
「うん…。して貰ってばっかりで、何かと、我慢させちゃってるんだろうなぁって、ずっと思ってた」
「そうか」
「そんな自分も嫌だったんだ。なまえちゃんのこと、確かに好きなのに…、」
どこかで忘れられなくて、自分に違和感を感じ続けていたらしい。
そして、ついに、彼女にすべてを話したんだそうだ。
はっちゃんが怒るのも分かるけど、斉藤が苦しいのも分かるから…
何とも言い難いな。
「そんなの、なまえさんには関係ないだろ…」
「はっちゃん…気持ちは分かるけどさ、これは斉藤達二人の問題だろ?俺達が言っても、どうしようもないよ」
「だからって…!」
「話なら俺が聞くから。そっとしといてやってよ」
「………」
沈黙は肯定とみなす。
はっちゃんになら通用するルールだろう。
自分のことより人の痛みに敏感な友人が、いつもの、太陽みたいな笑顔に戻るように。
今日はとことん付き合うよ。
彼のこと
***
H23.4.2
H23.5.24 加筆
ALICE+