「…転けるぞ」



斜めやや上から降る声に、足元を見やれば、小さな段差。
足を少し高めに上げて、事なきを得る。

こんな時、思うのだ。
案外、心配性なのね、と。



「流石の私でも、これは大丈夫だと思うんだけど?」

「いや、なまえだからな。用心するに越したことはない」



ちらりとこちらを見たと思ったら、すぐに正面へ戻して、こう言う。
過保護、とまでは言わないけど…、
こう、女の子扱いをされているようで、くすぐったい。



「何だか、潮江先輩に似てきたね」

「…私が?」



こくりと頷くと、あからさまに嫌そうな顔をする。
そんなに嫌がっちゃ、可哀想だわ。
あなたがいないところでは、よく褒めて下さっていたのに。
あなただって、慕っているでしょう。
滅多に、口にはしなかったけれど。



「笑えない冗談はよせ」

「冗談じゃないもの」

「益々悪い」



苦々しげに顔を顰めるところなんて、そっくり。
変わらず、正面を向いたまま続けるところも。

ひゅうと吹く冷たい風にも、背中を丸めないし、
思うことがあるのでしょうけど、最低限しか口にしないのも。



「良いじゃない、褒めてるのよ」

「そうは聞こえないな」



ふいに手をとられて、再び足元に目線を向ければ。

また、小さな段差。

スマート、と言うよりも、照れくささを隠すような表現が、おんなじ。



「気を付けろよ」

「はーい」



事も無げに、淡々と言えてしまうのが、少し、悔しくて。
むず痒さにそわそわしているのは、私だけみたい。

嫌な訳じゃないの。
ただ、少し、慣れないだけ。



「…あら、もう少し良いじゃない」



折角繋がった手を、すぐにほどいてしまうから。
物足りなくて、思わず口をついて出てしまったのだけど。



「…好きにしろ」



そう言った彼が、その頬が、少しだけ、色づいていたから。

何だか、たまらなくなってしまって。

制止する声を放って、その腕に飛び込んでしまったけれど。

呆れ顔のまま、笑ってくれたから。


このまま、離れたくない。

そんなことを、考えてしまった。






ボーイフレンド
 




***
H26.11.22

ALICE+