「ゆっくり飲みなよ。弱いんだから」
薄暗いバーの隅っこで、甘いカルーアを休みなく喉へと流し込む姿は、彼女に似合わなかった。
そもそも、こんな店に来ることがない。
何たって、ほとんど飲めないんだから。
飲みの席でも、いつもジュースだ。
「ん…おかわり」
「だーめ。鏡見てみなよ。顔真っ赤」
目が半分しか開いてない。
上気した頬の紅が、暗い色によく映えた。
こんな姿、男の前で簡単に見せちゃだめだよ。
言葉を選ばずに言えば、
"おいしそう"だから。
「タカまるー」
「はいはい、なぁに?」
触れるのを躊躇うような、近づきがたい雰囲気を纏ったいつもの彼女とは、似ても似つかない。
そういえば、自分の名前を呼ばれたのも、久しぶりな気がした。
「けっこんすんの」
呂律の回らない、その、だらしない口調のまま、
いつもは含まない、甘い色を漂わせたまま、
とんでもないことを言い出した。
誰が、何だって?
「…なまえが?」
確かに、こくこくと頷いてる。
まるで、こどものようだ。
焦点の合わない瞳は、
半開きになった唇は、
幼さを欠片も含んでいないのに。
「うっ…」
口元を押さえてうずくまる。
酔っぱらってるくせに、頭を振るから。
そりゃあ気持ち悪くもなるよ。
「ほら、」
背中を撫でて、冷たい水の入ったグラスを差し出す。
飲んだ量は知れてるし、戻しやしないだろう。
…いっそ、俺が吐き出してしまいたいよ。
***
H28.4.21
ALICE+