『また明日』

そう言って、君は私に背を向けた。

遠ざかる背中が、思ったより広かったことを、よく覚えてる。

そんなことを、ふと思い出した。

私の手をとり、ずっと一緒だと言って、笑い合ったのはいつのことだったか。

私たちは、いつでも一緒。

それは、互いに望んでいたことだったと思う。

いつから崩れていったのか、噛み合わなくなってしまったのか。

自分でも、よく分からない。

日々の小さな積み重ねが小さな亀裂を生み、更に重ね続けることで、埋めがたい溝をつくりあげてしまったらしい。

よくある話、と言えばそうだけど、実際に体験してみると、なかなか堪えるものなんだなぁと、ぼんやりとした頭で思う。



「…よぉ」

「…久しいね」

「そうでもないさ。ひと月も経ってない」



彼は、私と雷ちゃんを語る上で欠かせない人物だろう。

誰よりも、…私よりも、雷ちゃんを思い、理解しようと努めてきた人だから。



「そっか。そんなもんなんだね」

「…少し、痩せたな」

「最近太り気味だったから、ちょうど良かったかな」



彼と会わないと言うことは、雷ちゃんとも会っていないと言うこと。

可能な限り、彼は、雷ちゃんの傍にいたから。

それでも、私が彼に妬かなかったのは、彼が雷ちゃんの奥の方を、ちゃんと見ようとしてくれていたから。

…雷ちゃんが私ばかりを見てるって、ちゃんと感じてたのもあるけど。

そんな彼だから、私の言いたかったこと、わかってほしかったことは、知ってくれていると思う。

本人に、雷ちゃんに、届けられずに飲み込んだ言葉たちのことを。



「…本当に、良かったのか?」

「…どうだろうね。良し悪し云々と言うより、なるべくしてなった、って感じだったから」



雷ちゃんは、わがままだ。

そりゃあ人だから、そんなところもどこかにはあるだろう。

雷ちゃんは、優しくて、大らかで、人当たりが良い。
ちょっと優柔不断なところもあるけど、大抵の人は、接しやすいって感じるし、嫌いにはなかなかならないんじゃないかと思う。

そんな雷ちゃんが、私は大好き。

だけど、誰の前でもそうって訳じゃなくて、一定以上の間柄の相手には、少し違った顔を見せる。

普段はあまり表に出ない、だらしない姿もたくさん見てきたし、あれしてこれしてと、自分で出来るクセに、甘えてくることも多かった。

私や三郎と言った、気の許せる相手にしか見せないんだろうなぁなんて思うと、愛しさが勝って、それはさして気にもならなかった。

雷ちゃんの独占欲はなかなかのもので、私が仲間内以外の人間といると、すぐ不機嫌になるものだから、ご機嫌をとるのには骨が折れたっけ。

お気に入りのおもちゃをとられた子どものようなそれも、度が過ぎると気が気じゃなかったけど、少なからず嬉しいものだったから、あんまり気にしてなかった。

雷ちゃんの全部、とは言わなくても、なるべく多くを、受けとめて抱き締めていたいと思っていたから。

…私が、どうしても辛くて、酷く痛んだのは、きっとほんの些細なこと。

あれもこれも、受け入れることが出来たのに。

どうしてこれだけ、駄目だったんだろう。



「それは、あの時点で、の話だろ」



彼は、変に干渉されることを嫌う雷ちゃんに、私たちのことについて口出しすることを許されている数少ない人物だった。

扱いはぞんざいなことが多かったけど、雷ちゃんが彼をとても信頼していたことは知ってる。

傍にいれば、分かるから。



「今、は、また別の話だ」



彼は、目を合わせることがあまり得意ではない。

それでも、雷ちゃんの目は、そらさずにしっかり見てたなぁ。

それが今、珍しいことに、私に向けられている。

何だか、全身の血液が煮詰まって、濃くなっていくような気がした。



「なまえ。逃げるな」



声をかけた時、おざなりな返事が来ることが、酷く嫌いだった。

私なんて、本当はどうでも良いんじゃないかと思ってしまった。



「雷蔵のことを、想っているなら」



どれだけ好きと言われても、溶けそうな程甘い笑顔を与えられても、めんどくさそうにこぼした相槌が、忘れられなかった。

いつか、飽きて、要らなくなる日が来るんじゃないかって。



「…頼む」



今にも泣き出しそうな彼の悲痛な姿が、別れを告げたあの日の雷ちゃんに重なって、うまく笑えなかった。





よく似ている





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H24.4.27

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