『お前は、犬だな』


周りの人間から、しばしば頂戴する言葉だ。

確かに、好きなものの前や、嬉しいことがあれば、さながら尻尾を振るわんこのように喜んでしまう自分を、私は知っている。

そして、そんな私を御している彼を、仲間内では『飼い主』と呼ぶのだ。

まぁ、あながち、間違っているとは言い切れないのだけど…。



「…なまえ」



ピクッと、私の耳が反応する。

決して音量は大きくないけれど、低くてやわらかい、彼が吐き出す音色。

…やっぱり、私、犬なのかもしれない。



「ん」



彼と交わす言葉は、多くないし、長くない。

別に、お喋りが嫌いとか苦手だとか、そう言ったことじゃなくて。

彼に合わせていると言う訳でもなく。

ただ、何となく。

短い言葉を、ゆったりとしたテンポで投げ合う。

そんなスタイルに、自然となってしまうだけ。

それが、とても心地好い。

普段、どちらかと言えばお喋りな部類に入る私からしてみれば、不思議なくらいに。



「…眠い」



ころん。

そんな言葉で表すには、いささか体が大きすぎる気がするけれど。

私の両太ももにかかる重みと、案外やわらかい髪の感触が、くすぐったい。

私が眠たい時には、おんなじように、その固くて逞しいお膝に頭をお邪魔させるのだけど。

彼だって、同じなのだ。

飼い犬を枕にして昼寝をするような飼い主には到底見えない彼にも、そんな時がある。

こんなの、私に言わせてみれば、日常茶飯事だし。


そっと、繊細な髪に右手を滑らせれば。

閉じた目を更に細めるかのように、気持ち良さそうに、膝に擦り寄って来る。

可愛い。

強面な外見からは、およそ出てこないような言葉だけど。

私にとっては、誰よりも可愛い、甘えたな人なのだ。



「おやすみ」



こんな、穏やかでやわらかい一時が、阻害されませんように。

ただ、願うばかりの昼下がり。


これ以上の幸せなんて、ある?










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H25.2.9

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