どうして気付かないのかな。
こんなに分かりやすく示しているのに。



「庄ちゃんのそれは、分かりやすいとは言えないんじゃない?」

「そうかな」

「そうだよ」



穏やかな表情の中に
『本当に気付いてないの?』
とでも言いたいのか、呆れた色が混ざり合ってる。

それでも不快に感じないのが、伊助の好きなところだな、とよく思う。



「彼にはまだ、庄ちゃんがよく見えてないから」

「…もう一年半は経つのに」

「まだ一年半、だよ」



『人の心なんて、そう簡単に分かりゃしないんだから』
言葉とは対照的な言い方をする伊助は、こんなにも自分のことを知っていると言うのに。

…確かに、人の心の変化に聡いタイプじゃないかな、アイツは。



「もう少し、優しく接してみたら?」

「…アイツに?」

「彦四郎に」

「自分で言うのもなんだけど、結構優しくしてると思うよ」

「庄ちゃんの優しさは分かりにくいよ」



『僕は好きだけど』
可笑しそうに目を伏せて言う伊助のことは、僕も好きだけど、アイツはどうかな。

口から勝手に飛び出してしまいそうになる言葉を何とか飲み込んで、喉の方に押し戻す。

何でもない顔をするのは苦手じゃないけど、ちゃんと、知っていてほしいと思うのは、僕のわがままなんだろうか。



「大丈夫だよ、庄ちゃん。焦っちゃ駄目」



何もかも、見透かされている気分になる。
でも、決して嫌な訳じゃなくて、何でこうも違うかな、と、うそぶきたくなってしまうのだ。



「同室だもの。分かるよ」

「…伊助だからだよ、きっと」



たとえばアイツが同室の相手だったとして、一年半を過ごしたとして。
目の前の彼と同じように分かり合えている今は、想像しがたい。

逆に、たとえば伊助がい組で、委員会が同じだったとしたら。
何だかんだで、気の置けない、信頼出来る間柄になっているような気がした。

どんな環境であっても、彦四郎は彦四郎だし、伊助は伊助なのだ。

それを言ってしまえば、自分のこの感情の行き場に、少し困ってしまうけれど。



「庄左ヱ門、いるか?」

「どうぞ、入って」



そんなことを考えていた矢先、件の彼がやってきてしまった。

微かに揺れた僕の心を宥めるように、向かいに座る伊助がにっこりと笑った。



「委員会のことなんだけど…」

「あぁ、うん。何か不備があった?」

「そうじゃなくて、鉢屋先輩が…、」

「鉢屋先輩が?」

「庄ちゃん、これ、片づけてくるね」



遮るでもなく、すっと流れるように入ってきた控えめな配慮がありがたい。

湯飲みやら皿やらの乗った盆を持って、部屋を出る背中を見送る。

戸を閉める瞬間、ちらっと僕らを見て、小さく笑った気がした。



「…彦四郎?」

「っ…何だよ」

「…何怒ってるの?」



むすっと、膨らんでいるように見える頬は、少しふくよかになった気がする。
団子や饅頭ばかり、好んで食べるからだろうな。

突然機嫌が悪くなるなんてこと、初めてじゃないけど、今回は原因が思い当たらない。



「…別に、怒ってないけど」

「じゃあ、どうしてそんな顔してるの」

「…生まれつき」



全く、意地っ張りなんだから…。

『誰かさんとそっくり』
なんて、伊助の声が聞こえてくるみたいだな。

…、もしかして…?



「…伊助のこと?」

「っ…べ、別に…僕には関係ないし」



分かりやすい奴。
忍者に向かないなぁ。

でも、まぁ、この様子だと、悪くはないってことかな。



「そうだね。伊助はよく気がきくから助かるよ」

「ふぅん…」



聞こえるか聞こえないかはっきりしない程小さな声で

「悪かったな、気がきかなくて」

なんて言うものだから。
にやける口元を隠すのが大変だよ。


伊助の助言通り、焦らないことにしようかな。

ちゃんと、気にはしてるみたいだから。

まぁ、そうじゃなくても、離す気なんてさらさらないけどね。

初めから。





そんな君が好き





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