いなくなった彼を探すのは、自分の役目だった。
誰に任命された訳でもないが、僕にしか出来ないこと、と言うと大袈裟だけど、どうやら僕が適任らしかった。
何より、彼が望んでいるのが、そうらしい。
同室の兵太夫ではなく、学級委員長の庄左ヱ門でもなく、同じ委員会の虎若でもない。
誰より、僕が良いらしいのだ。
それは、本人が口にしていたことだから間違いはないのだろうけど、どうしても解せなかった。
何故、自分なのか。
本人に訊いたことがある。
でも、彼の答えは
『なんでだろうね』
結局、はぐらかされて終わってしまった。
「三治郎ー!」
学園内は隈無く探した。
初めこそ、皆も一緒になって探してくれたけど、僕じゃない誰かが見つけた時、彼がふてくされた顔をしたままなかなか戻らなかったので、いつしか匙を投げられてしまった。
団蔵が見つけた時なんかは、ツンとした三治郎の態度に腹を立てて、教室に気まずい空気が立ちこめていたことを思い出す。
そういえば、そんな団蔵を宥めたのは自分だったな。
その後、何故か更に機嫌を悪くした三治郎を宥め、落ち着かせたのも自分だ。
あれはなかなか骨が折れたな…。
自分に出来ることなんて、そうある訳ではないのに。
学園内にいないのならば、たぶん裏山だ。
裏々山まで行ってないと良いけど。
夕食までには連れて戻らなくちゃ。
三治郎捜索係になってから、以前よりも少し体力や筋力が増したかもしれない。
そんなことを頭に思い浮かべながら、よく見知った山道を走った。
「…三治郎」
「いるんだろ」
根拠はない。
彼の声を聞いた訳でも、姿を見た訳でもない。
ただ、何となく。
何となく、近くにいる気がした。
「…三治郎」
そう大きくはないが枝の多い木の上から、ひょいっと地上に降り立ったのは、他でもない三治郎だった。
見つかったことに、ほっと胸をなで下ろす。
「三治郎、帰ろう」
手を差し出すと、彼も同じように手を伸ばす。
今から帰れば、夕食には余裕を持って間に合うだろう。
たくさん走ったから、お腹空いたなぁ。
そんな呑気なことを考えていた矢先。
視界が揺れた。
「うわっ…ちょっ…」
手を引っ張られて、バランスを崩した僕は、そう硬くはない肩に顔をぶつけた。
誰のって、言うまでもなく、三治郎の、だけど。
「…伊助」
背丈はあまり変わらない。
僕の方が少し高いくらいだから、肩に頭をつけたこの体勢はなかなか腰にくるのだけど。
か細い、数年前よりは幾分か低くなった声を吐き出して、自分を呼ぶものだから。
応えない訳にはいかないじゃないか。
「伊助」
ただ、名前を呼ぶ。
彼は、いつもそうだ。
探してほしくて身を隠すくせに、いざ見つけたら、どれもこれも飲み込んでしまう。
構ってほしくて仕方がない、母親にすがる幼子のようで。
もう四年生なんだからしっかりしろよ、とか、言わなくちゃ分かんないだろ、とか、言ってやりたいことは山程あるけど。
僕の背中辺りの忍装束と、引っ張られた時のままの左手首を掴む彼の手が、少し震えていたから。
あまりに、弱々しかったから。
僕はただ、空いた手で背中を撫でて、静かに彼の名を呼び返すことしか出来なくなった。
この感情の名前を僕は知らない
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H24.5.6
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