「三治郎」
自分を呼び止めたのが誰なのか、振り向かなくたって、分かる。
長い付き合いだもの。
我らが学級委員長、黒木庄左ヱ門。
信頼はしてる。
だけど、気に入らない。
それとこれとは、話が別だから。
「…なぁに?庄ちゃん」
笑顔を顔に貼り付けるのだけは、昔から得意だった。
だけど、思いだしたよ。
庄ちゃん、君も、上手だったね。
にっこりと笑う僕に、穏やかに微笑む君。
見た目だけなら、和やかってことになるのかな?
僕の心境から考えると、なかなか難しいとは思うけど。
「あんまり、当たっちゃ駄目だよ」
誰の、何のことを言っているかなんて、分からない筈ない。
だけど、そんなこと、君に言われたくないよ。
君にだけは。
「なんのこと?」
軽く首を右に倒して、しらばっくれてみる。
まぁ、それを許すような男じゃないのは、知ってるけど。
「伊助のこと。六年になって、特に怪我が増えたからね」
その名前が、彼の口から出たことに、思ったよりも苛々しているらしい。
自分のものみたいに言わないでくれる?
同室ってだけだろ。
だからどうしたんだ。
むしゃくしゃする。
アイツの周りに自分じゃない誰かがいるって思っただけで、嫌で嫌で仕方がないのに。
こんな感情、どう扱えば良いのか分からない。
伊助も伊助だ。
分かっているようで分かってなくて、嫌になる。
それなのに、絶対に離したくなくて、誰よりも傍にいたくてたまらなくなる。
そんな僕の大きな障害が、今、目の前にいる。
「へぇ。そうなんだ」
思ったより、自分の声色が低くなっていたことに、少しだけ驚いた。
僕の声を聞いてなのか何なのか知らないが、更に口角を上げた庄左ヱ門を、不快だと感じずにはいられない。
「大事にしてくれることを願ってるよ」
軽く目を伏せながらそう言うと、僕の横を通り過ぎた。
自分よりも高い位置にあって、広く、硬そうな肩が、一層嫌味に感じる。
劣等感の塊ような僕には、見せ付けられているとしか、受け取れないから。
「庄左ヱ門」
「…なぁに?」
「そういえばさっき、彦四郎が医務室から出てくるの、見たよ」
「…へぇ」
悔しくてたまらない僕の、精一杯の抵抗。
君に届いていることを願うよ。
あぁ、むしゃくしゃするなぁ。
そう感じた時にとる行動はひとつ。
会いたいのは、アイツだけだよ。
同じ穴の何とやら
(醜くない筈、ないじゃないか)
***
H24.8.13
庄→彦、三→いすのお二人。
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