一歩、二歩、三歩、
廊下の軋む音が、小気味良く響く。
後ろ頭に感じるのは、そっけない熱い視線。
然り気無く振り返ってみると、すっと消えてしまう。
いつもいつも見られていたら、気になるじゃんか。
押して引いて、視線だけの駆け引きだけど。
焦らされてる俺の身にもなってよね。
「なーんで逃、げ、ん、のっ!」
少し離れた場所で知らんぷりするお前の目の前に、あっ!と言う間に移動することなんて、俺には難しいことじゃないんだからな。
五年い組の学級委員長なめんなよ。
お前の視線や気配なんて、すーぐ気づけるんだから。
「…何だよ」
「鉢屋が逃げるからじゃん」
「逃げるって何だよ」
「何で声かけないわけ?」
「お前を見かけたら声をかけなければならない決まりでもあるのか?」
「あれだけ、じーっと見られたら、何かあるのかと思うじゃん」
「…別に」
「なーんだ。期待して損した」
わざとらしく、ぷいっとそっぽを向いてみる。
こんなんじゃ、コイツはさして反応してくれないって、分かってはいるけど。
向けられる視線に踊らされて、ドキドキしてるのは俺だけ?
そんなのってズルイ。
もっともっと、ツンとすましたその心を揺さぶってやりたい。
俺のそれと同じように。
「…はちやー?」
黙りこくって俯いた頭を、じっとりと、恨めしげに見つめてみれば、俺のこの悔しさは伝わるだろうか。
なぁ、知りたいって思うのは、お前にとって、そんなに怖いこと?
その距離を近づけるには、ほんの少しの興味で十分なのに。
単純で良いじゃん。
ビビッって感じたことを、肯定するだけで良い。
お前だって、わかってるくせに。
「…綺麗な景色を見れば感動するし、おいしい団子を食べれば満たされるし、気になる奴がいれば知りたいと思う」
俺はさ、ただ、知ってほしいんだ。
そしたら、また違った何かが始まるかもしれないし、始まらないかもしれない。
そんなの、どっちだって良いんだよ。
どうなるか分かんないから、面白いんじゃん。
「それで良いと、俺は思うんですケド」
ひょいっと、その顔を覗きこもうとしたら、ひらっと身を翻して立ち去られてしまった。
まぁ、ちょっとはその胸の内に、届いたかな?
逃げたのが何よりの証拠ってことにしておこう。
考え事をすると腹が減る。
生きてる証拠だ。
そういうことだよ、鉢屋。
ミセタイ
***
H24.11.25
ALICE+