(君との愛情表現)

「それでよぉ、ウチの奥さんがさぁ」
「俺のとこなんて…」
「お前らはいいよなぁ!!!相手がいてさ!」

「…賑やかしいな」
「…そうだな」

夜もふけた酒場で、酒盛りをする数人の男たち。
それは仕事仲間で、誘われたエレオはたまには付き合うべきかと参加していた。
唯一の救いなのは、マコトがいることか。

酔いが回ってきたのか、男達の話はヒートアップしていき、最近の夜事情やらワンナイトやらなんやらと、下世話な方向へ話がシフトしつつあった。

「マコトは?お前も涼しい顔して実はムッツリなんだろ?」
「?あぁ、オレは…」

前言撤回だ。話を振られてしまったマコトが答えた言葉にエレオは思った。
こいつも結構酔いが回っているし、えげつないことをいっている。
とんでもない。今すぐ帰りたい。
そう若干、遠い目をして、コップに残った酒を煽る。

「そーいやエレオは、」
「ロロラをその下世話な話に巻き込むならコロス」
「うわ怖。そーじゃなくってさぁ。
気になって。やっぱお前もあっついキッスとかしちゃうの?彼女のこと大好きだっつーことはわかんだけど、イマイチな〜」
「確かに。エレオと性欲ってあんま結びつかない。むしろ彼女命なのが意外」
「…とはなんだ」
「え?なに?」

ギャハハと勝手に盛り上がっていた男達は、エレオの口からこぼれた言葉を聞き取れず、聞き返した。
それにエレオは、ごく真面目な声でもう一度繰り返す。

「キスとはなんだ」
「は?」

複数の男から真抜けた声が漏れた。
エレオの横のマコトは、真面目な顔のエレオと間抜けな顔の男達の対比に思わずフッと笑いをこらえる。

「え?うそ?しらないの?本当にピュアッピュア?ピュアエレオだった実は?付き合って結構立つよね?あんなイチャイチャしててやることやってないとかある?」
「は?セッ「お前も結構酔ってるな。あとそこ笑いすぎ」はしてる」

真面目なエレオの声は、ついに笑いを堪えられなくなったマコトと、びっくりした拍子に酒が抜けた1人の男の声で遮られた。

「え〜?キス知らない?あんなにいいのに?」
「だからなんだそれは」
「くっくく、いや、待てまあ待て」
「待つのはお前だよ。突然の笑い上戸はやめろ」

クククッと自身の腹を押さえながら、片手を皆に向けていたマコトはどうにか笑いをおさえ息を整えた。

「文化の違い、があるだろう。アウラ族にはそういう概念がない、とか」
「あぁ」

ぽん、と男達はマコトの言葉に納得したように手を叩いた。
この場にいるのはほとんどがヒューラン族であり、アウラ族はエレオのみである。
ともなれば、1人疑問を持っているのもおかしいことではない……はずだ。

「えぇ〜?アウラ族ってどういう文化?やるこたヤってんだろ?
好きだ〜〜とかそういう愛情表現とかさ〜パッとできんのキスじゃん?ないの?」
「?愛情表現はボクらは角と角をこすり合せるが」

またもや真顔で答えたエレオに、まさに目から鱗だというが如く、目をまん丸にして男達は固まった。
答えを知っていたのか、その状況を見て端ではまたマコトが笑いを堪えている。

「なーーーるーーーほーーーどーーーなーーーー????」
「ツノなー???ツノあったなーーーーーー???」
「えっツノ?逆になんかエロくね?」
「言われてみればエロい。アウラ族やばい」
「勝手に人を変な目でみるな」

やだわ奥さんあの人ったら。まあ嫌よねいやらしいわ。などどさっきまで下世話な話をしていた男達がエレオを揶揄う。

「…で、ボクは答えを聞いてないんだが」
「あぁ、キスねキス。ざっくりいうと口と口合わせるんだよ。他にもいろいろあってだな〜〜」

その後ペラペラと喋る男達からキスはなんなのか、またさらに酒を盛り今以上になった状況でど偉いものを見せられたエレオは、文化の違いは凄いなぁなどと、遠い目をして帰りの支度をしていた。



それが、数日前の話だ。


任務もない休日、エレオとロロラはゆったりと自宅で過ごしていた。
久々の休暇のためか、ロロラは嬉しそうにエレオに寄り添い、自身の角をエレオの角に合わせている。

それを微笑ましいな、と内心思いながら見守っていたエレオは、ふとあの話を思い出した。

ー…絶対してみるべきだってマジで!

酔いの回った男達の顔が浮かんだ。
何がいいのかは未ださっぱり理解はできない。

「ロロラ」
「ん?」

一通りして満足したのか、離れたロロラの名をエレオは呼ぶ。
何?とでも言うようにこちらに目線を寄越したロロラの頬に手を寄せ、ツノに気をつけ顔を近づけた。

ぽっかりと無防備に空いたロロラの口に、男達に言われた通りの行動を行う。

「!?、!?」

驚きで引っ込んだその舌を追いかけ、絡め、暫くして口を話した。

「エレオ……?」

状況が全く掴めないロロラは、ようやく解放された口で彼の名を呼ぶ。
しっかりと頭を固定されていたため逃げられなかったし、顔が近くにあったのでどこか気恥ずかしく、頭が回らない。

「どう思う」
「エッ」

真顔で尋ねてきた彼に、いささかロロラは落ち着きを取り戻しつつも、さらに困惑を重ねる。

「なにが?」
「ヒューラン族の話になって」

エレオは下世話なあれそれは置いておき、自身の行動の理由を説明した。
それにはえ〜と真伸びた声を出したロロラは、照れるように頬をかく。

「よくわからないけど…突然は驚いたし、なんか照れたから…ウーン」
「そうか。悪かった。そういえば茶が沸いていたな。いれてくる。待ってろ」
「あっありがと〜〜」

特にギクシャクするわけでもなく、いつも通りにやり取りをして、エレオは席を立つ。


「………」


台所へ向かいながら、エレオは自身の唇の端に残った唾液を拭う。

「……たしかに、悪くないな」


…エレオは、一つ賢くなってしまった。







君との愛情表現
(さ、最近よくそれしてくるようになったね)
(嫌か?)
(い、やではないけど…)
(ならいい)
(本当にいいのかなぁ〜…???)





続きはないです

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