(氷結のココロ)


(大丈夫。頭は働いてる。身体も動く)

ウラニアはアベルとアキラと共に救助などを行いながら、心の中で安堵の息をついた。

雪は、真白の世界は。
ウラニアにとって鬼門である。

いつも通りの涼しい顔が、雰囲気が。
できないことにアベルも、さらに言ってしまえば、そこまで交流もなかったアキラも薄くだが気づいてしまったのではないのだろうか。

それほどまでに、この真白はウラニアにとって毒だった。

救いといえば、流血沙汰のFOXの暴動とまだかち合っていないことか。

(大丈夫。もう時間はどれだけすぎたと思っているの。
克服した。克服できてる。
それよりも、もっと多く救助しなければ)

本部から届く情報を捌いては、予知による情報収集を行いつつ、ウラニア達は街中を駆けていく。

その途中、ちかりと星が瞬いた。
流れ込んできた映像と共に、意識の端で絹を引き裂いたような悲鳴が聞こえた気がした。

「ファウスト」

がっと肩を掴まれたことで、急速に意識は現実へと戻る。

「予知ですか?続きしながらでもいいので、向こうに。悲鳴が聞こえました」

アキラが少し慌てたように駆け寄ってきて、悲鳴が聞こえたであろう箇所を指し、アベルと共に駆け足で向かっていった。

勿論、ウラニアもそのあとを追う。

「◯◯で女性の悲鳴あり。FOXの可能性も。念のためにワタシ達の周辺にいるバディやスリーマンセルに通達を」

2人の背を追いながら、本部への連絡も忘れずに行う。

ちかり、ちかりと。
星が瞬く。

あぁ、嫌な予感がする。

流れ来た映像は一般市民達と、FOXらしき人物が対立した様子だ。
能力の予測もあらかたついた。だから後は、一番の最悪を避けることに注視しなければ。

腕が震えるのは、何故だ。

吐き出す息は白く、吸い込んだ凍てついた空気に、ウラニアはごほりと咳つく。


そうだ、あの日も。

この寒空の下を懸命に走っていた。


2人が曲がり込んだ角までたどり着き、体を捻ってその通路へと飛び込んだ。

「ファウスト!」

瞬間、鋭いアベルの声がウラニアを呼ぶ。

「ファウストさん、治療をお願いしてもいいですか!こっちはあのFOXを…!」

2人の声の方向へ視線をやり、ウラニアはまるで凍てついた氷像のようにびたりと固まった。


赤だ。


真白の中に、赤が滲んでいる。

「…っ」

ヒュッと、短く空気を吸い込んだ。
酸素が、薄くなったような気がするのは気のせいか。

「ファウストさん…っ?」

アベルはすでにFOXの対応に向かった。ちらりとだけウラニアに目線をよこしたが、すぐ様FOXへと目線を戻す。少々厄介な相手だからだ。
アキラはアキラで、突然微動だにしなくなったウラニアを怪訝そうに、かつ焦ったように再び名を呼ぶ。

瞬いた星は、ワタシをきちんと導いただろうか。

「ぁ…、」

間違いなく、星は今度こそ彼女を正しく導いただろう。
だってまだ、FOXは現場にいるし、アキラの側にある血濡れの女性は、まだ息がある。

悲劇といえば、奇しくも。

“あの日”の再現現場かのように、真白の中に赤が広がっていることだろうか。

「いや、いやよ……いかないで…」

瞬く星は混乱を始めた彼女のことなぞ、知らぬと言わぬがばかりに、導きの断片を。天啓の絵を。
ずらずらと彼女へ示し続ける。

ボロボロと泣き出したウラニアに、アキラはギョッとした。
頭を抱えて、絶望に満たされた顔が、数時間であるが共にしたウラニアがするものとは到底思えなかった。

敵が変装してこちらを乱そうとしているのか、それとも何か幻覚を見せられてしまっているのか。

迂闊に近寄れなくて、せめてこの女性の治療だけでもと、ウラニアに任せるはずだった作業に若干手を付ける。

「タレイア……ッッ」
「っファウストさん!!!」

びたりとかたまってから、始めてゆらりとよろめいたウラニアの背後から新手のFOXの魔の手が忍び寄る。

アキラは銃を構えた。
そうして悟る。これは、間に合わないー……

と、思ったところで。

瞬く間にウラニアを狙っていたFOXは吹き飛んだ。

「危なかった〜…!!」

優しげな声が聞こえる。

変わらずボロボロと涙を流すウラニアの側には、むんっと構えたポールと、そのバディであるマルコが立っていた。





氷結のココロ
(いつまでも彼女の心はあの時に囚われている)

(アベル〜〜!!助太刀するよ〜!!
もう大丈夫だよおねーsってウラニア…!?)

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