(沈黙の星)
『冬の空の下は、1人じゃ寒いから。
けど大丈夫!私にはウラニアがいてくれるから!』
冬の空の下は、独りでは寒いから。
あぁ、なのにワタシは。
アナタを独りで逝かせてしまったわ。
************
「なんで泣いてるのウラニア!?!!?」
あと普段と違ってすぐに気づかなかったよ!?と、ポールはウラニアの周りでワタワタとワタついた。
「メラーズ。そっちはひとまずキングズリーに任せてこちらを手伝え」
「えっ!?エ…ッわかった!」
一瞬ポールはウラニアとアベルの間で目線を迷わせるも、すぐ様アベルの加勢へと向かった。
その時、アキラはアベルからの任せたというアイコンタクトを受け取った。
多分…任せたと、言ったはずだ。承知するように、コクリと顎を引いた。
「ダメよタレイア、いっちゃ、だめ、」
相変わらずウラニアはというと、こちらを見ているようで、違う場所を見ているような。
短かった呼吸がますます浅くなり、まるで溺れ行く様を見ているようだった。
紛れもなくこれは、パニックによる過呼吸…だ。
「すみません、こっちの女性頼んでもいいですか」
アキラはポールと共に現れたマルコと治療を代わってもらい、ウラニアの側へと寄る。念のため、銃を隠して構えて。
「落ち着いてください。ファウストさん、深呼吸です」
されども、ウラニアは近づかれても変わる様子はなく、ただハアッハアッという短い呼吸と、向こうで戦う戦闘音だけが耳に届いた。
(これは、シロだ。すみません、疑って)
アキラは心の中で謝罪を述べると、構えを解きウラニアの背をさする。
「やめて、死なないで、いかないでたれいあ、」
浅い息の合間に、嘆願するような声が吐き出される。
「知り合いの女性ですか?大丈夫です、まだ助かります。だから落ち着いてください。息をゆっくり吸って」
その声も届いていないかのように、ウラニアはうわごとを浅い息と共に吐き続ける。
何がこんなにも彼女の琴線に触れたのかわからない。つい数分前は、普通に…いや、気分は些か、悪そうだったが…こんなにも急変するものなのだろうか。
何か落ち着かせる手立てを、と辺りを見渡しかけたところで、ずるりと。
気持ちの悪い何かが、這い寄った気がした。
ゾッとしたところで、ぐらりとウラニアが傾いた。
「ちょ…っ」
倒れる、と手を伸ばしたところで、ガバッとウラニアに抱きつかれて、そして次には突き飛ばされた。
「は、あ!?!?」
雪に足を取られたのと、予想だにしなかったことで(先ほどまでは予知で予測してくれるものがいただけもあって)、アキラはずるりと滑り、尻餅をついた。
そうして、銃を向けられる。
目の前の…女。ウラニアから。
「なん、」
「ハァーイお兄さん」
ニタリと笑った顔は、“今度こそウラニアではない”。
「キングズリー!」
向こうの戦闘が落ち着いたのか、アベルとポールがこちらを見ている。
1人はポールの手により縄に縛られており、もう1人は、アベルのそばでぐったりと伸びていた。
「精神系の能力者だ!」
「大正解〜このお姉さん、ゲロほど精神弱ってて入りやすかった〜!
おっほかにもいいもの持ってるじゃんこのお姉さん〜」
普段のウラニアならあり得ない言葉遣いを目にして、乗っ取られていることをここにいた皆が察した。
「なんかみーんなてんやわんやしてるし、遊ぶのに絶好のチャンスだと思ったんだけどなぁ〜
犬には合うし付いてないや」
「っファウストさんを返せ」
「見逃してくれるならいいよ*」
「なにを…っ」
アキラは銃を突きつけられながらも、目の前の人物を睨みつける。
しかし、ウラニアを乗っ取った人物は怯む様子はない。
「返してもいいけど〜お姉さんもう目覚めないかも?
もう出たくないよ〜〜!!!って言ってるようなもんだけど、なんかあった?」
何か。
何かなんて…ただ一つだ。
膠着状態に陥るかと思われた時、ゴウッとウラニアの手が燃える。
「アッッッツ」
ベッと火がついた手袋と同時に、女は銃を落とした。
『もう黙ったらいかがですか』
「は?なんて?」
「ウラニア痛くするけどごめーん!!!」
突然投げかけられたドイツ語に眉を顰めたところで、どっと腹に衝撃が入り、気づけば女はポールの手により組み敷かれていた。
「は!?この女仲間なんだろ!?傷つけちゃっていいのぉ!?」
「煩い。お前の精神だけ燃やす」
静かにそう告げながら、手袋を引っ張りこちらに歩み寄るアベルの姿は、女の目にはどう映ったか。
「いやいやいや精神だけ!?そりゃあ流石のあんたでも無理だろよ!!!」
ジッと組み敷かれた側に生えていた草が燃えて炭と化した。
「次はお前だ」
「っおいおいおいまじ、」
アベルが、女に。ウラニアの体に照準を合わせたところで。
「ギャッ」
カエルの潰れたような声を上げて、パタリと女は沈黙した。
『(ピッ)こちら◯地点。目標の人物らしき対象を捕縛。そちらの様子は?』
「…こちら◯◯通り、マーティン。対象は沈黙した。当たりだ」
その場にいた全員の無線に入った情報に、アベルは1人静かに答える。
「よ……ッッかったぁ…!!!」
ウラニアの体を捕縛していたポールはどっと安堵すると、ばたりと冷たい雪へと倒れる。
倒れてすぐ、ハッとしたように気を失っているウラニアを雪の中から引き上げた。
「っはぁ…!!どうなるかと…!!」
アキラもはあ、と息をついて空を仰ぐ。
そろそろ尻餅をついた尻が、雪で冷たすぎるところだ。
マルコからもこっちの女性もどうにか。という報告を受け、そこからバタバタと他のチームも合流し、女性は搬送されていく。
「流石アベル…!!あの会話で潜伏場所の目星つけるとは!全然わかんなかった」
「いやほんと。アベルさんいなかったら詰んでた奴っすねこれ…」
「FOXが間抜けだっただけだ」
ファウストさんは?寝てる!などと会話しながら、わらわらと彼らは集合する。
変わらずクールなアベルは、それに、と続けた。
「優秀な専用無線も配られてた事だしな」
そうして、トントンと耳にはめられた通信機をアベルは小突いた。
「っすね…」
近くで戦闘していたアベルとポールが情報を共有していることはまだわかる。
だが、離れた場所にいたアキラがこの展開を予想していた事が以外の一つだろう。
それは、スリーマンセルを組む際にウラニアから配布された通信機が一役を買っている。
通信回路を絞る事で、一定の人物にしか音声は聞こえないようにできる機能が備えられている。
だから、ウラニアの体を乗っ取ったFOXの耳には、通信機からはアベルからの指示は届かず、アキラの耳には届いた。
“1人はきっとFOX本体の体ではない”
この指示の時はまだ、ウラニアにも繋がっていたはずだが、彼女はそれどころではなく、さらに言ってしまえば、彼女はその能力を予知で見抜いていた。
“粗方の住処の目処がついて今別班に追わせている。時間を稼げ”
次の指示が、ウラニアの通信機には届かなかったものだ。
「いやでも…戦闘しながらこっちの気も配れたりします…?」
強いなぁ…とアキラは雪を払いながら呟いた。
「とりあえずウラニアを本部に連れ帰らないと」
「そうですね。なんか不穏なことも言われてましたし…乗っ取られる前の状況も状況だったし…」
よいしょー!とポールがウラニアを抱え、アキラは本部へと連絡を取った。
「えっすごい大所帯…ってウラニアさん何かあったの…!?」
そこへ先ほど合流したガーネットたちバディは見知った姿を見たからか、近づいてきた。
その中に、ぐったりとした人物もいて驚きもしたが。
冬の空の下は、独りでは寒いから。
気を失った彼女は、独りではなかったが。
それからしばらく…目を覚ますことはなかった。
沈黙の星
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