(吹雪の中に)

雪が、怖い。

白が、怖い。

真白に滲む…





赤が、怖い。



ちがう、

違う違う違う違う違う違う!
怖くない!怖くなんてない!震えてる場合ではないの!絶望している場合ではない!!ワタシは、進まなくてはいけないのに!!!

あの子と同じような人を生み出さないように、しないといけないのに……!!


「なのにどうして、ワタシは…!
こんなにも弱いのよ……!」



ーーーーーーーーーーーー


あの事件以降、夢をよく見るようになった。
昔の、タレイアが生きていて、楽しかった日々を。

命日が近いからだろうか。
駆けつけた先で、真白を赤に染めた彼女の姿も、よく夢に見る。

(寝不足、だ……)

魘されては目が覚める。
倒れた彼女に駆け寄り、触った時のあの冷たさが。
人の温かさを失ったあの温度が、夢だというのに鮮明に残っていた。

(情けない、本当に情けない)

自分の甘ったれ具合に嫌悪する。
自分がまだまだ未熟であることを、痛感するに他ならない。

ウラニアは額を押さえて息を吐いた。

気を引き締めなくてはならない。
任務中に錯乱して卒倒するなんてこと、2度とないように。

…だから、不安要素は作らないに限る。


「ウラニア!」

名を呼ばれてピクリと反応したものの、ウラニアは気づかないふりをして施設外へと足を進めた。

「ま、待って待って待って!!」

ズザザッと目の前に青い壁が立つ。
正しくは、いつもの服に身を包んだポールが、だが。

「久しぶり、元気だった?
なかなか会わないしあっても気づかれないしで…心配してたんだよ〜」

心配そうにこちらを覗き見てそうな雰囲気のポールを、ウラニアは目線を下に向けたまま聞く。

なかなか会わなかったのは、そうだろう。
ウラニア自身が会わないように動いていた、といっても過言ではない。

「…どうしたのウラニア?もしかして元気ない?」
「…元気ですが」
「なんで敬語…???」
「目上を敬うのは常識かと思われますが。メラーズさん」

冷ややかな声でウラニアが答えると、それ!!とポールがショックそうな声を上げる。

「お互いの年齢が判明した時にいったよね〜…?
敬語いらないって…距離置かれたみたいでかなしい………」

しょも…とした雰囲気が漂ったのが、ウラニアは視線をあげなくても分かった。


「………置かれたみたいも、なにも。
現に置いているのですが」
「え?」


ウラニアの言葉に一瞬目を点にしたポールは、次の瞬間にはなんで?と言葉をこぼした。

「俺何かしちゃった!?えっごめん!
ってわからないのに誤ってもって話かな!?でもウラニアを怒らせるつもりで行動したことはなくってその…!」

わたた、と腕を振り始めるポールに、ウラニアはいささか眉を寄せた後、彼を睨め付ける。

「ワタシには、友人なぞ不要でした。
そんなことに現を抜かしている場合ではなかったのです」
「…う、ううーん!?!?」
「金輪際関わらないでください。
いいえ、関わらない方が、いいわ」

苦々しく吐き捨てるように、ウラニアは言葉を紡ぐ。
その嫌悪はポールに向けられているわけではない。
それを、彼はわかっただろうか。

「…なんでウラニアに関わらない方がいいの?」
「死ぬわよ。ワタシに殺されるわ」
「え?」

突然の話の飛びように、ポールは頭が混乱しかけた。
すでに全然前と違いすぎるウラニアの様子に困惑して、脳がショートしかけていたのに、そこに水を注がれた気分だ。
感電間違いなし。

「ワタシは命を捨てた。拾えなかった。守れなかった」

(だからワタシは、)

「……マイナス思考はダメ!!だよ。ウラニア。
この前から随分思い詰めてる風だったよね。
あの時の任務?大丈夫だよ。アベルがうまく片付けたし、ウラニアの通信機も一役買った。良いスリーマンセルだったと思うよ?」
「そういう話じゃないわ!!!」


ウラニアは怒気を強めて音を吐き出した。
これまでに、ここまで彼女が叫んだことがあっただろうか。とポールは驚き口をぱかりとあける。

ウラニアもウラニアで、怒鳴るつもりもなかったし、こんな八つ当たりみたいにするつもりもなかった。
けれども連日の夢での寝不足が、ウラニアの思考を奪い、冷静さを削り取っていた。

「ワタシは、ワタシは!!タレイアの死を予測していたのに!
ワタシが未熟だったばっかりに…!!的外れな予知だけ告げて!
何が足元に気をつけてよ、何が、なにが…!!!」

あの日、そういえばと思って別れて少し経った後、連絡を取ろうとした。
しかし彼女とは一向に連絡が取れず、忙しいのかと思ったところで、星が瞬いた。

その星が告げたのは、助けてと口を動かす彼女と、彼女がいるであろう場所だったのだ。

「なんでもう少し!もう少し早く詳細を見れなかったの!どうして断片的にしか見れなくて、あっちの方が後だったのよ!!!」

後の方が、先に見えていれば。
あの子はきっと今も生きていた。

「…それがどうして、ウラニアに関わらない方がいいになるの?」
「分からないの!?ワタシはまた選択を誤るかもしれない!順番を間違えるかもしれない!
あの頃より能力の制御はついたし、精度も上がった!けどワタシには、前科がある!」
「いや、落ち着いて…落ち着いてほしい、ウラニア」
「落ち着けない、落ち着けないわ!ワタシは、ワタシはもう2度と……!!」

そう、もう2度と。




親しくなった誰かを。
大切になった人を。



自分の無力が原因で、失いたくないだけなのだ。


ならば、そもそもそんな誰かさえ作らなければ、自分がこんなに弱っていくこともなければ、前に進めなくなることもないのではないかと。
そう、そう、

そう思うことでしか、弱い自分は立っていられなくて。

距離を置いたからってきっと、彼らがいなくなることが起これば、きっと同じことの繰り返しだと思うのに、大丈夫。大切な人を作らなければ大丈夫。そう、言い聞かせるしかないのだ。


「………………とにかく、」

はあっと息を吐いたウラニアはどうにか荒ぶりかけた(すでに荒ぶっていた)気を沈めて、言葉を紡ぐ。

「…ワタシは、1人でいい。1人で居るべきだ」
「なんで!1人じゃダメでも2人なら!3人なら!出来ることが増えるよ」
「それでも、足を引っ張る者がいればマイナスよ」
「アベルや俺だって心強い仲間になるよ!あとアキラやガーネットに…」
「でも、」
「でももだってもなーーーい!!!!」

ぺちこーん!とポールにしては可愛らしいデコピンが、彼女の額を打つ。

「ウラニアは!1人で!背負いすぎ!」

デコピンをされたことに驚いたウラニアは、パチリと思わず目を瞬く。
目に映るのは、片頬を膨らませるポールと、ちらりと降り始めた雪だ。

「……だって、」

おろりと、打たれた額にウラニアは手を当てる。

「まただってって…え!?!??」

ぷん!としていたポールは閉じていた目を開けて、まだだってと言い続けるウラニアに目を向けた。
目を向けたところで驚いた。ありとあらゆる意味で。

「だって、どうすれば、良かったの……?」

小さな少女がそこにいる。
ぶかりとした服は、確かに先ほどまで目の前にいたウラニアのものだ。
これが一つ目の驚き。
二つ目は、いまにもこぼれ落ちそうなほど溜まっている水…涙、だ。…今溢れた。

「わ、ワタシ、どうすればよかったの。
だって、ワタシ、なにも、わるくないって、きにするなって、タレイアのおとうさんも、おかあさんも、だれも、ワタシ、を、せめなかった」

それが一層、ウラニアを苦しめることとなっているのを、気を遣った親友の両親達は知らない。

「アナタと、ともだちでよかった、とまで、いわれたわ。ゆきのなかに、ながくほうちしておかなくて、すんだ、からって、いっいっそ、どうしてたすけてくれなかったんだって、いって、もらったほうが、」

こんな、こんなに。自分を自分で責めることはなかったかもしれないって。
タラレバだということを、彼女は何度も思っていた。

感情が止まらない。沈めかけた思いが再び暴れる。
制御が効かないのは、どうしてなのか。
ウラニアは眠さも余って、自分に起きた変化も、その原因も、思い至らない。

「どっえっウラニッえっ!?!?」
「ワタシは、どうすれば、よかったの!
おしえてよ!おしえて!!!どうしたらタレイアはかえってくるの!?ワタシはいつになったらつよくなれるの!!
ワタシはもう、アナタたちを、だれも、うしないたくなんてないのに……!!!」

ぼたぼたと涙が零れおちるぐらいで耐えていたダムが、ついに大決壊した。

ウヴァーーー!!!!と鳴き始めた彼女、彼女…???はまるでウラニアらしさがない。

しかしポールは、ふと思い出したのだ。
泣き叫ぶ彼女にオロオロとしながら思い出した噂話。



ウラニア・ファウストは、よく笑う女だった。
よく泣く女だった。
感情表現豊かな、女だったらしいということを。

雪が降り始めたことに気づいたポールはなんとかウラニア?をあやしながら建物内に戻っていく。

うぇゔぇあぁああ゛となく彼女は新鮮すぎる。
小さな手は、確かに抱きかかえあげたポールの服をつかんでいた。


雪の色は、桜色だった。





吹雪の中に
(ピンクの雪も降るんだな…あぁ〜泣き止んでウラニア〜…!!)
(どう゛ずれ゛ばよ゛がっ゛だの゛よ゛ぉ゛〜〜……!!!!!!)

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