(輝く魅力)


「はい」
「はいィ?」

相変わらず大してただいまも言わない同居人。
そんな同居人が帰ってくるなり差し出してきたものに男…瑞雨恵は、その大きな猫目を歪め、困惑の声をあげた。

「おかえり…っつーかなに?なんなんこれ」
「特に意味はないかな」
「ハー?」

ていうかただいまくらい言え、と最早何度目かになる小言を言いながら、恵は軽く目の前の男、花香逆名の足を自分の足で小突く。

「痛い。野蛮なお嬢さんだな」
「痛くもねー顔しといてなに言ってんだお前。ってゆーかお嬢さんじゃねーわ!!!」

振りかぶった手はヒラリと避けられ、恵の腕は宙をきる。
もはやこの小競り合いも毎日のことだ。

「特に意味はないってなんだ。意味がないのにこんなものをお前から受け取るオレの気持ちを考えた事はあるかお前(早口)」
「ないかな」
「即答か!!!!!」

恵の怒号が再び響くが、そんな恵の怒りを煽る原因の逆名はどこ吹く風だ。

はあ、とため息を吐いた恵は逆名から受け取ったものを見る。
シンプルだが、ご丁寧にもラッピングされたそれは、色鮮やかに。
綺麗な花々が、恵の腕の中にあった。

「きもちわる…」
「失礼な人だな。肥料がどれだけ良質になったか見てあげようと思ったのに」
「お前はいい加減人の事を肥料って言うのヤメロ」

会話をするたびに煽りあいだ。
そんな2人がなぜかルームシェアをしているのだから、彼らの間に起こった事象を知っている者たちは、だいたいが首をかしげる。
ただ、時計技師の男はその事を恵が伝えた時、そっか。はなくんを、よろしくね。と言って眉を下げて笑っていた。

「はー…お前が意味わからんのはいまに始まった事じゃないわ……。
特に意味を持たないお前からの贈り物だけど、花には罪はないだろう。ありがとう。受け取っておく」
「最初からそう素直に受け取ればいいのに」
「あぁ言えばそういう減らず口だな逆名よぉ、お前晩御飯抜きにするぞ」
「職務放棄はどうかと思うよ」
「うるせー!!!さっさと手ェ洗ってこいバーーーカ!!!!」

恵はその猫目をますます吊り上げて、怒りの言葉を吐き出すと、どすどすと足をたてて奥の部屋へと引っ込んで行った。

特に、意味はないのだ。

そんな後姿を一瞬だけみとめ、すぐ逸らすと、これ以上怒られるのも面倒そうだからと、逆名は洗面所へ向かう。

花香逆名は、美しいものが好きだ。

イヤイヤながら見に行った劇に、口煩い今の同居人は舞台に立っていた。
日頃の自信満々な態度を裏付けるように、美しくそれはそこにあり、役を演じていた。

瑞雨恵と花香逆名は、常々ソリが合わない。
最初が最初なところもあるが、根本的に性格が違う。
仲が悪いというやつだろう。なのでますます、ルームシェアの意味がわからない。
恵が勝手に、時計技師との約束を果たすためだけに共にいる。…と、逆名は思っている。

勝手に向こうがやっている事なので、こちらが向こうの機嫌を伺う必要性も感じなければ、わざわざ仲良くなろうと行動する意味も見出せない。

それでも、煩わしいと思うことは常々あれども、あの男元来の美しさと、それをより一層輝かせる自信を、それだけは、逆名は肯定する。

(まあ、確かに君は美しいから)

だから何となく、深い意味もなく、帰り道に見かけた花屋で花を買って贈ってみた。
反応は大体予想通り。

理由づけを強いられるのであれば、ただそれだけだ。

洗面所から戻れば、ラナンキュラスの花が食卓に飾られていた。





輝く魅力
(そーいや舞台見にきてくれたんだな)
(イヤイヤだけどね。行かなきゃ君、死ぬほどしつこいし。まあよかったんじゃない)
(後ろに知らんけどってつきそうなくらい適当な声音で感想をどうも)

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