(お嬢様の策と戯れ)

「ヴィルギル!!!!」

バン!と勢いよく書庫の扉が開けられる。
その扉を開けた張本人は、薄桃の髪を振り乱して走ってきたらしく、その吐く息は短い。
その少女…花山院茉莉花と関わるようになってから、この書庫の平穏は度々なくなるようになってしまったなぁ、と。
書庫に入り浸っていた褐色の肌を保つ黒髪の男…モーリッツ・ヴィルギルは、はあと息を吐いた。

「嫌だよ。やだね」
「まだ何も言ってないでしょ!?」

茉莉花に一度視線を投げた後、モーリッツは顔をしかめて自身が持っていた本へと視線を戻す。
その返答を聞いた茉莉花は、気に入らないと言わないばかりに声を上げてつかつかと男へと近づいた。

「いや、聞かなくてもわかる。もう最近は学習した。したとも。かれこれ君との付き合いは2年を迎えそうになるけれど、こんな風に君が現れる時は、だいたい面倒な案件だ」

だから嫌、と一向に本から視線を外さないモーリッツに、ますます茉莉花は顔をしかめた。

「このあたしが困ってるのよ!助けるのが筋ってものでしょう。本じゃなくてあたしの話を聞け!」
「あっ」

ばっと本を奪われたモーリッツは、非難するような目を茉莉花へと向けるが、茉莉花は茉莉花でご立腹な様子だ。

しばしの沈黙の後、はあと息をつくとモーリッツは渋々と言った形で口を開いた。

「…で、何かな。わがままなお嬢様」
「あたしの恋人になりなさい」
「ハァ?」

答えははいかyesしか与えない。そのような圧を言外に含んで、茉莉花はモーリッツへと放った。
そうして、何言ってるんだこいつ?という意を含んで短い言葉を返したのがモーリッツだ。

「………ハァ?」
「たっぷり間を挟んで同じ返事をするんじゃないわよ。
このあたしの恋人になれるのよ。光栄なことでしょう?」
「………………なんでそういう話?」

ドヤ顔をかます茉莉花に、額を押さえるモーリッツ。2人の面持ちは真反対だ。
それでも、その発言に至った意を問うくらいには、モーリッツの心は広いらしい。広いのか、もはや諦めなのかはわからないが。

「面倒な相手に絡まれてるのよ。
どこかの企業だかなんだか知らないけど、そこの子息。頭悪そうな」
「はあ、」
「“君に釣り合えるのは僕しかいない”とか言って、どう無下にしても引き下がらないのなんのって」
「へぇ…」
「速攻で会社ごと潰してやってもよかったんだけど、これがまた少し手を出しにくくてね。
じゃあアンタなんかお呼びじゃないのよと仮初めでもいいから相手を作って見せつければいいかしらって思って」
「………馬鹿なの?」

誰が馬鹿よ!とモーリッツの言葉に茉莉花は噛み付くが、モーリッツは頭が痛そうなままだ。

「……」

そうしてまた、一つ長い息を吐く。

「…まず、まず100歩、いや5億歩譲って」
「すごく譲るわね」
「その男を撃退するのに、相手を用意するのはいい」
「そうでしょう!」
「いいけれど、けれど何故オレなの?何故?」

頭痛が治まらない様子でモーリッツは一言一言切り、言葉を述べた。
だが、茉莉花はそのモーリッツにキョトンとした様子を返す。

「何故って、アンタとあたしは手を組んでいるし、まあ、ヴィルギルならいいかなぁと」
「はぁ〜〜〜〜???」

意味わからん、と普段の飄々とした様子からでは想像が出来ないような顔で、ヴィルギルは頭を抱える。
花山院茉莉花と、あの物語の再演で手を組んでからというものの、モーリッツは彼女が原因でちょくちょくとペースを乱されがちだった。
突拍子もない彼女の様子は飽きないが、それは自分が巻き込まれなければであればだ。

「…大企業の息子なんだろう?」
「まあそれなりにね」
「…オレがなんだかわかってる?わかってるの?」
「?モーリッツ・ヴィルギル」
「そうじゃなくて……。…前に話したことがあるけど、オレは出自を辿られると、孤児だ。君達みたいな上流の身分は持ち得ない」
「だから何よ」
「だから、それだけ自分の身分に価値を持っている男だ。オレ如きを添えただけで、納得すると思う?」

いいやしないね。ますます意固地になるよ、と嫌そうにモーリッツは顔をしかめた。

「だから何よって言っているじゃない。
アンタを指名したのはあたしよ。身分なんて関係ないわ。
あたしの決定を、誰かに茶々入れられたり、蹴られたりする謂れはないのだから」

威風堂々たる様子で、茉莉花はそう言った。
モーリッツはというと、ポカリとその口を開けて唖然としている。

「ヴィルギル、アンタ割とその孤児がどうとか気にするわね」
「いや、気にしているわけじゃ、ないけれど……。
でも君、………いやもう、問答も面倒だな…」
「最高に栄誉な話よ。喜び咽び泣きなさい」

一瞬遠目をしたモーリッツは、何をみて、何を思ったか。
過ぎ去ったソレを、口に出そうとして続きそうな問答に嫌気がさして、その言葉は飲み込んだ。
茉莉花は変わらずドヤ顔だ。

「…仕方ないな、お嬢様。貸し一つだからね?一つ」
「早くそう言えばいいのよそう!仕方ないからご飯くらい奢ってあげるわ」
「割に合わないんだけど……?」

書庫にやってきた当初の苛立ちは解消されたようで、上機嫌になった茉莉花はニコリと笑った。

「じゃあ、きちんと演じてよね!モーリッツ!!」
「はいはい、…茉莉花」






お嬢様の策と戯れ
(ところで付き合うって何をするのかしら)
(エェ〜〜………やめていい?)

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