(こえをきいて)

人は彼を狂人という。

それを男、コル・レオニス・レギュラスは、そうなら関わりたくねぇなぁ、とただの一般生徒の時思っていた。

されどもどうだろうか。
彼の言葉は確かに理解し難かった。それでも解読できなかったわけではない。
ちぐはぐでつぎはぎで、様々な言語や単語が入り乱れる。しかし、その言葉に意味がないものは何一つとてなかったのだ。

気づいたのは、コルが副寮長になってしばらくだ。
数度程度言葉を交わしたことのある、狂人と囁かれる男、蠍座の寮長を冠する、サレナ・ハリナと2人きりになってしまった時があったのだ。
初めはどうしたものか、と内心頭を抱えたが、言葉を交わすことが必須だったため話をした。

ほんの小さな引っ掛かりだった。
あれ?これって?というふとした閃きだった。
その閃きを口にしたところ、今までの会話の返答を「だいたいそう」と答えていた彼が「そう!そう!」と目を輝かせて喜んだ。
なるほど?と思い、それ以来彼の発する言葉に注意を寄せた。

彼のことを狂人と呼ぶ者たちは、彼の言葉に耳を傾ける事を諦めてしまった人々なのだろうとコルは思う。

小さな引っ掛かりと理解を積み上げて、積み上げて。コルはサレナの言葉を読み解いていった。
今でもたまに、わからないことはあるが、聞いていけばそれも理解出来る。

そうして、彼の言葉はチグハグな音とは違い、重い意味を持っていることを知るのだ。
コルはそんなサレナのことを、少なからず好意的に見ており、僅かながら信頼していた。
少なからずと、僅かながらで納めてしまっているのは、コルが臆病なせいだ。


「先輩、忘れたくても、忘れられなくて。苦しいことが終わらない時って、どうしますか?」


いつか、コルは久々に疲れてしまって、サレナに向かって零してしまったことがあった。
目をぱちぱちと瞬かせた彼は、なんと答えたのだったか。

コルは、思うのだ。

願わくば、彼の言葉(こえ)を理解出来る者が、オレ以外にできますように。

と。

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