(ドキドキ!潜入捜査!)

「ま〜じでやってらんねぇっす!」
「でけェ声で喋ッてんじャねェ。バレんだろッ」
「ハイハイハイハイッ」

バタバタと駆ける男と、その男に抱えられた女がやや苛立ったように会話する。
疾走により翻るスカートを着た女は、確かに見た限りは麗しい美女であったが、その口から発せられる声は低い。

追え!逃すな!!という複数の声が彼ら2人を追ってくるが、駆ける男は足を止めることはなかった。

1人は、レオン・ウォルド。
獅子座の寮長として学園に君臨する、獅子のような男だ。普段の着崩した格好とは違い、今はきっちりとした礼装を着ている。
その男に抱えられている女…否、男は、レオンの下につく副寮長の立場にある男だ。短い髪は今は長く、彼を飾る服は華やかな赤のドレスだ。コル・レオニス・レギュラスの目はどこか死んでいる。

何故学生の彼らが、今こんなことになっているのか。簡単に言ってしまうと…我らが学園長の無茶振りにならない。

曰く、高名な令嬢がよろしくない組織に狙われている。
曰く、その令嬢がどうしても出席しなければならないパーティーがあるが、娘が心配だと父親は言ったらしい。
曰く、その令嬢は、雰囲気がコルに近いらしい。

『というわけでコルチャン。ちょっと女装して代わりに行ってきてくれる?』
「は?」
『レオンチャンはコルチャンのパートナー役で付き添ってね』
「あァ???」

画面の向こうで語尾に音符がつきそうな学園長が、彼らにそう言い渡した。

『緊急時に能力を使うのは可だよ!でも一般人は巻き込んじゃダメだからね!
じゃあ、怪我のないようによろしく〜!』

と言うのが、長い話を掻い摘んだ結果、レオンとコルが理解した部分だ。

そうして今。その任務を果たそうとし…案の定2人は追われている。

「てめェやッぱ体力つけたほうがいいぞ」
「イヤイヤイヤ体力つけてもヒールでガッツリ走れる人間がいたらオ、ワタシは尊敬いたしますわ!」
「ブッ」
「笑ってんじゃねぇっすよ」

いいですか。オレは運動が“苦手”なんじゃなくて“嫌い”なんすよ。汗かきたくねーんで。
とぶつくさ言うコルに、いいから早くルート出せ。マップ全部頭に入ッてんだろ、とレオンは返す。

「いや話し始めたのアンタっすからね?わかってますよ合流ポイントいきゃいーんでしょ」

はあ、と息を吐いたコルは次の瞬間にはその目の色を変え、思考を始める。
何もこの2人、たった2人で乗り込んだわけではない。
学園長の采配で、寮長・副寮長クラスの中も数名来ている。
それでも、子供に任せるのはどうなのか…と思うことに変わりはないが。

細々と漏れるコルの算段を聞きながら、やりャァできるんだよな、コイツ。と思う。
けれどもそれをコルはひけらかすことはなく、むしろ隠し、そして自分には何もないと言う。
この俺が選んだのに何もないわけがあるか、と言いたいが、コルは否定の言葉しか吐かない。

(ひとまず今回俺はこの“お姫サマ”の護衛だ。
駆けてやるよ、どこまでも。
さァ、その頭を回すんだな。獅子の心臓)

「できました」

レオンがコルを抱き直したところで、思考の海から彼が戻ってくる。

「おう。じャァ、反撃と行こうか?」
「えぇ。二度と悪さできない体にして差し上げましょう?」

演技とはいえ、お嬢様言葉でにこりと笑う男は、今日限りで見るとどこをどう見ても女だ。
この顔面好みだなぁと、レオンは思うのであった。

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