(覚醒した炎。溶かした心。)

鮮烈な赤を見た。燃え盛る炎が温度を上げるほど、その赤は透き通った青となる。

輝く太陽を見た。
私が哀れに思った、陰の少年はもういない。

私は、彼の瞳の奥に沈む、夕闇の赤が好きだった。

私は、過去の自分がいかに愚かで、傲慢だったかを。
この日、眩しいほど知るのだ。


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私は人である。名前は……まああるが。この話において、私の名前は別段重要なことではない。その為、割愛とする。
私のことは【私】とでも思っておいて欲しい。

私は一介の学生だ。
といっても、ただの学生とは違う点が少しある。
同じように違う点のある同校生と比べてしまえば、つまらないものではあるが、私は特殊な能力を持っていた。

あなたは魔法をご存知だろうか。
火を出す、水を生み出す、物を浮かす。言うなればファンタジーと分類されそうな事柄を、十人十色に持ち合わせた学園に通うのが、この私であった。

といっても、先ほども述べた通り、私の能力はこの学園内においてはあまり大したものではなく、奇抜さもなければ、使い所もあまりない、なんてことのない能力だった。

そんな私を【私】はコンプレックスに思っていながらも、それを覆い隠しながら学園で過ごしてきた。
幸い、頭はそれなりに使える方で、人からの印象も悪くなく、委員長という多少の地位は得ていた。

そんな折、同クラスとなったのが、コル・レオニス・レギュラスという男であった。

彼の口元は高確率で黒いマスクに覆われており、顔のパーツとして認識できるのはまつ毛の長い瞳だけであった。

その目の色を、仄暗い赤の瞳の奥に見える夕闇を、私はよく知っていた。
誰も信じられない。心を開ける者がいない。一線を引いて、ただ一人そこにある。

外側の【私】を得る前の、自分のようなその瞳から、目を離せなかったのを覚えている。
そしてその後視線に気づいたのか、ばちりとあい、すぐさま逸らされたのも。

あぁ、かわいそうにな。
と当時の私は思った。一人でいる、孤独な子。
誰かに話しかけられても、怯えて線から出られない子。
線から出るふりをすることすらままならない、不器用な子。

コル・レオニス・レギュラスに近づいたのは、ほんの親切心と、偽善だった。
私は【私】のために、彼の世話をしてあげようと思った。
【一人でいる可哀想な子】を【優しく人々の輪に入れてあげる私】
そうすることでしか、私は私の価値を上げる術を知らなかったから。

【私】はいつだって、私より下だと思った者に救われていたのだ。


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彼との交流はうまくいっていた。
彼に声をかけて“あげよう”と思ったその日から、しばし彼のことを観察していたのだ。
マイヤーズくんがグイグイと話しかけにいった時に見たしかめ面。
同室の琴平くんがマシンガンの如く投げかける言葉に頭が痛い顔。
彼が嫌がる“距離”を私は測った。
そうして彼好みの“態度”も学んだ。

そのおかげか、最初はやや警戒をされたものの、その意識を解くのは早かった。

彼は存外、よく笑う人であった。
といっても、全ての口元はマスクの内に秘め、小さく笑う声と、少しすがめられる目を見てどうにか判断できる、という程度であったが。
彼の他者からの評価はいくつか聞いたことがある。
暗い、ダルそう、見た目が輩、何考えてるかわからない、面白くない。
多分この評価は単に、彼が人を避けてきたことと、人が彼のことを理解するのをやめたことが原因に他ならない。
前者は彼の自業自得だし、後者も考えてみれば呼び水は彼である。

本当に“人好き”を装うことが不得意なんだな、と思ったものだ。

そんな彼でも、慣れてしまえばこの通り。
笑いもするし、冗談もそれなりにいう。口数も最初に頃より増えたし、私もいつからか、彼に釣られてよく笑うようになった。
外側の【私】ではなく、本当の私が笑っている。そんなことに気づかないふりをして、私は未だ、この子を助けているつもりだった。

クラスが離れても、それなりに話す機会は多く、また私も、一人でいる彼を見かけると親切心で話しかけにいった。
一人は寂しいからね。惨めだからね。

1番驚いたのは、彼が夏寮、獅子座の副寮長に指名された時だ。
嫌だと彼が言っても、寮長命令は絶対。
なんと彼は私と同じ一般生徒から、副寮長にランクアップしてしまったではないか!

こんなことを想像してなかった私は、当時多少狼狽えてしまったが、その後聞く彼への評価に安堵したのを覚えている。

『突出したものがないのに選ばれた副寮長』
『楯突くことしかできない男』
『寮長によくあんな態度が取れるな』

あぁよかった。
彼はまだきっと一人ぼっちだと、安心した私が確かにいた。
彼はまだ、私より【下】だと。

けれども副寮長となった彼の環境は目まぐるしく変わる。
話しかける人間が少なかった彼は、副寮長という立場を通じて、その数を増やした。

まずいと私は焦る。
貴方はまだ私の所へいてもらわないと困る。
貴方はまだ一人でいてもらわないと!と。

そんな自己愛ばかりの私をせっつくかのように、現実は容赦なく針を進め、ついには彼は獅子座の寮長と喧嘩したというではないか!

そして、彼は泣いて、助けを乞うたという。
副寮長の座を降りろと言われても、暴走した生徒に刺されても、泣き言も(愚痴はあったが)言わず、助けも求めず、スタンスを変えなかった彼がだ!

あぁそんな。
と私はその事実を知った時酷く狼狽えた。
その涙を掬うのは私のはずだった。
助けを乞われるのも私のはずだった!
私はずっと、可哀想な彼を助けて、気にかけてきたというのに!
貴方は別の誰かに手を引かれて先へ行く!

勝手に裏切られた気持ちになった私は、それからというものの自分から彼には話しかけなくなった。
彼はというと、用事があれば無遠慮に話しかけてくるし、なんとなしの雑談でも呼び止める。
私はこんなにも貴方のせいで心乱されているというのに、だ。
こんな酷い話はあるだろうか。



……………なんて、当時の自分は思ったものだなぁ……と私はぼんやりと思った。

鮮烈な赤を見た。燃え盛る炎が温度を上げるほど、その赤は透き通った青となる。

「そうだオレは、夏寮獅子座の副寮長。次期寮長を担う、コル・レオニス・レギュラスだ!舐め腐ってんじゃねーっすよ!!」

彼は彼の瞳に飼っていた夕闇を、自分で昇華した。


輝く太陽を見た。
私が哀れに思った、陰の少年はもういない。

彼はその陽から隠れるのではなく、その下へと進むことを決めた。

あぁ、なんて。

私はいつの間にか溢れた涙にも気づかず、ただ、彼を見た。

彼は私の隣におらず、周りにいるのは彼のこの数年間で培った、確かな仲間だ。
上っ面だけで、親切心などという、偽善を売った私の入る隙はない。

私は、彼の瞳の奥に沈む、夕闇の赤が好きだった。

けれども、燃え上がる炎のように鮮烈な赤も、確かに美しかったのだ。


私はきっと、仄かな炎を秘めた彼を、
穏やかに光る焔を、そばに置きたかっただけなのだ。




覚醒した炎。溶かした心。
(彼は私の、陰をも明るく照らしてくれた)

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