(友達、とは)
「だって俺たち、友達だろ!!」輝かんばかりの笑顔でそう言い放った、自称友達の男に、当時中一だったコルはドン引いたし警戒した。
それと同時に仄かに苦い思い出も思い出した。
友達になろうと言われ、友達になったつもりだった。
憧れの存在に近寄れたと思っていた昔。
それは全て幻想だったことがある。
“友達”なんていう枠組みに、もはやろくな思い出はない。
それを真っ直ぐかつ一方的に渡してきたのが、春寮所属のシャロレー・マイヤーズだ。
出会いは、そう。友達なんていうものになるようなことはなかった。ほんのついさっきに話だ。
ただ教室でぼんやりしていて(移動教室になったのを知らなかったのだ)、帰りてぇなぁなんて思ってる時に声をかけてきたのがこいつだ。
同じクラスで、明るくって騒がしいやつ。大体人に囲まれてる、……避けたい相手。
それが移動教室になったから行かないと遅刻するぞ、と声をかけてきた。
「……そっすか。そりゃどうも。アンタも遅刻するんでとっとと行ったほうがいいっすよ」
目線は奴にはやらなかった。
そっけなく返したため、ムッとされたかもしれないがどうでもいい。
どうせすぐ移動教室に向かうだろう。
どうしようかなぁ、授業の内容全部知っててつまんないんだけどな。と、移動する気が微塵もわかずそのままぼんやりしていると、「教科書忘れたのか?」と再び声がかけられる。
まさかまだ人がいるとは思わず、驚いて声の方向を見る。
あ、やっとこっち見た。なんて言われて、しまったとも思う。
変わらず男はそこに立っていた。
「……そういうわけじゃねーっすけど」
「じゃあ早く行こうぜ!遅刻するって!」
「…さっき聞きました。オレの事はほっといてくれていいんで…」
「えー!そんなわけには行かないぞ!」
つかつかとマイヤーズは近寄ってきて、オレの腕を引こうとする。
意味がわからない。オレの遅刻はお前に何も関係なく、オレに構ってれば一緒に遅刻になるはずなのに。
「いや、関係ねーでしょアンタ…」
思わずポロッと本音が漏れる。
でも本当に、関係ないのだ。
言ってもただのクラスメイト。それ以上でもそれ以下でもなく、他人に間違いない存在。
「だって俺たち、友達だろ!」
なのに、だ!
「は?友達?誰と誰が」
「お前と俺!!名前なんだっけ?」
「……名前知らねーのによく言えましたね、友達なんて……」
眉間に皺がより、口が曲がる感覚がする。
まあ口元は、マスクできっと見えていないだろうが、オレは相当引いた顔をしている事だろう。
「俺とお前話した、友達!」
「いや意味がわかりません」
「俺、シャロレー・マイヤーズ!」
「知ってます。話を進めねーでいただいても?」
「シャロレーでいいぜ!」
「聞け」
「お前は〜…コル・レオニス・レギュラス?コルか!」
「聞け〜……」
これはあれだ。
この話をやや聞かない感じ、既視感がある。
やや痛み始めた額に手を当てながら、脳裏にはピンク色の髪をした、可愛らしい男を浮かべる。
あれもどこまでも話を聞かなかった。
まさかこいつもその類か?
人の手荷物から人の名前を見つけ、よろしくなー!なんて呑気にいう男の内心が計り知れない。
ただそう、本当に、心の底から意味がわからない。
昔の苦い思い出がフラッシュバックする。
何度でもいうが、ろくな思い出がないのだ。
「………マイヤーズ」
「シャロレーでいいって!!」
「………アンタ本当に遅刻するっすよ」
はあ、と深く息を吐いてオレがそうこぼすと、マイヤーズは時計を見てゲッと声を漏らした。
「やばいやばい!ほらコル!荷物持って!立つ!行くぞ行くぞ!!!」
「ちょっ、だからオレは、」
置いて行けって、という暇もなくがっしりと掴まれた腕に引かれて歩く、どころか走らざるを得ない。
道中でマイヤーズに話しかけても、だからシャロレーだって!としか言わず取り合ってもらえない。
何だお前 何だ本当に。
そんな、意味のわからない友達宣言をされて以降、ちょくちょくオレはマイヤーズ……もとい、シャロレーに話しかけられ絡まれるわけだが(名前についてはしつこ過ぎるのでこちらが折れることにした)
タイプの違うオレとシャロレーが(一方的に)つるむことで、クラスメイトからの視線が痛いし、それを知った同クラス、同室の琴平が合流を果たし、うるさい×うるさいの構図が出来上がってしまった。
オレはただ、静かに過ごしたいだけなのにこのバカ二人はそれを許さない。
相変わらず、初対面でぶちかまされた友達発言の真意は理解できない。
何を考えていたのかさっぱりだし、…もしかしたら何も考えていなかったのかもしれない。
あぁもう、好きにしろ。
と、煮詰まってきたオレはぐしゃりと自分の頭を掻き乱す。
お前が何を思っていようと、存分に利用すればいい。
それなら十分“慣れている”から。
要は期待しなければいいのだ。
だからシャロレー。オレはお前を友達だとは思わない。
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