(記憶喪失の原因は)

目が覚めたサレナに誰か、と問われたコルは一瞬呆けたが、瞬時に状況整理を始めた。
そうしてサレナ自身にいくつかの質問をして。結果として導き出した答えは【記憶喪失】だ。

(記憶喪失…?なんで…頭を打った?いやでもどこか怪我をしたような感じは……)

思考に沈みかけたところで、ハッとしてコルはサレナに向き直る。

「…すみません、申し遅れました。オレは、コル。
コル・レオニス・レギュラス。…えぇと。アナタの学生時代の後輩であり、現同居人で……。…アナタのそばに、いたい人間です」

なんと言ったものか、とコルは考えた後素直にこれまでの関係を述べた。
学生時代の後輩であり、現同居人。サレナのそばにいたくて、今ともにある存在だと。

「…そう。じゃあ君は、良い人なんだろうね」

サレナは一度瞬いた後、そう言い小さく笑った。
それに些かコルは眉を顰めかけたものの、どうにか留めた。

サレナの記憶は、どうやら家族の断片的な記憶以外はゼロに等しい。
学生時代の記憶も、ここ最近の記憶も皆無に近かった。勿論、コルに関することも。
近かった、のはサレナ自身の家族が関わったことであれば多少朧げながら反応があったからだ。
それでも、その家族に関することでも歯抜けな様子なのは聞いてわかった。

なぜ、記憶喪失になったのか。
…それは、サレナの能力に関係するのではないか?と思考を止めていなかったコルは思い当たった。

「……そうだったなら、いいんですけど」

コルがどうにか絞り出せたのは、そんな言葉だった。

「…とー…りあえず、ですね。痛いところとかはないんすよね?」
「うん、そうだね。ちょっと気持ち悪いくらい…?」
「……一度病院行っときましょうか。念のため…」

そう言ってサレナの保険証をコルは取り出し、彼を連れて病院に行ったわけだが、彼が言ったように特に異常なし。
記憶の話もしてみたが、脳的には異常はないようだ。

「例えば、外傷や病気以外に、強い心的ストレスによって記憶障害が起こることがあってね。
ハリナさんのストレスについて、レギュラスさんは何か思い当たるところは?」
「……いえ」
「うーん。とりあえず様子見しようか。体的には問題ないよ。何かあったら来てもらえるかな?」
「はい、…わかりました」

病院に行って帰る中も、記憶喪失による日常生活への影響はありありと見えた。
どうにかフォローしながらも自宅へと帰り、晩ごはんを食べる。
食事や風呂は問題なし。歳をとるごとに進んだ技術知識への追いつきが全然…と言ったところだ。
寮生活をせず、家族とともにいたのならここら辺も残っていたのかもしれないが。

「これからどうするか。……ちょっと色々原因とか考えさせてください。
大丈夫です。オレがいます。……大丈夫です」

寝る前に、コルはサレナの手を握る。
大丈夫、それは自分へ言い聞かせるように彼へ。

「うん。わかったよ。ありがとう、レギュラスくん」

久々にその呼ばれ方をした。
いえ、とコルは答えた後、サレナを部屋に案内して、自分も部屋に戻りベッドへと転び込んだ。


記憶喪失の原因は




脳的には異常なし、強い衝撃も特にはない、健康体そのもの。

ー強い心的ストレスがー

サレナさんの能力は、秘匿。
記憶に鍵をかけて、忘れる。

鍵をかけた理由は?家族関連のごく一部を残し、何もかも封じた原因は?

オレは何も、気づけていなかったのだろうか。
そばに居ながらも。

これは、かねてより言っていたオレからのお願いの、彼なりの返答だとしたら?

「………ハ、…ダッセェ…」

今更どくどくと鼓動は早まり、つんとしたものが鼻をついた。

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